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彼等は反逆し得るか? (kankisis) 完
 ケニムヴェルセス ソーロン
「そんなことがあって良いものとでもお思いなのですか? この我々のことは、どうでも、どうなっても良いと?」ベルデ・ファスが憤って言った。
「これは決まりですので……彼の財産はどうしても接収されなければならないんです」役人が言った。
「しかしだな、彼の個人としての財産が没収されるのはこの頭でもわかる、無論奴があんなことをしていたとは……糞忌々しい……予想だにしなかったわけだが、しかしだ、組合の財産まで没収するなんて……ひどいにも程がある」
「しかし決まりですので……」役人は帳簿に目を落とした。「これもですね」
「オドグ」
「何ですか」
「もうおしまいだ……」
 オドグはそれには言葉を返さず、一階を見下ろす二階から下りた。冷たい鉄の階段は何かを頑に拒否しているかのようだった。一階には誰もいなかった。ここに来てから十六日が経ったが、このような日は一日としてなかった。ノメイルから輸入した幾つかの機械には何枚かの張り紙がしてあった。
 解雇されてここに来たのに、また行き場を失うとは……。「伯父さん?」「何だ!」「もう行きますよ」「じゃあな!」
 〈ヒエーレ‐ネルト〉は十六日前と変わっていなかった。中ではイェイレルと誰か、男が話し込んでいた。男の方はいささか動揺しているようだった。
「俺にはもう無理だ……。自分のようなのが記録者をしていると思うと、吐き気がしてくる……頼む、これを預かってくれ」男は紙の分厚い束をイェイレルに渡すと、二階に上がっていった。
「あのデルマスィンが国王暗殺未遂事件の首謀者だとは思いませんでしたね」イェイレルが手元を見て言った。「そう……あなたの元上司の、ギズ・リグゾが昨日死んだらしいですよ。彼に聞きました」
「あのギズが……」オドグは呟いた。叔父が「きっとすぐ死んで代替わりするさ」と言っていたのを思い出した。「そうですか」


 次の日、オドグはオースからやって来たナラヴに会った。
「久し振りだな、元気にしてたか? オドグ? 全然手紙をくれなかったじゃないか」
「ああ……一旦落ち着いてからやろうと思ってたんだ、でもこの有様だ……知ってるよな? 暗殺未遂の首謀者のこと」
「デルマスィンか。お前の知り合いか?」
「叔父の組合に資金提供してたんだ。でもデルマスィンが捕まって破産さ」
「そうか、そりゃあ仕方がないな」
「で、今日は何の仕事で来たんだ?」
「デルマスィンの家を調べに来た。何にしろ異例の事件だから、これ位のことはしなけりゃならない……そうだ、ギズの事は聞いたか?」
「死んだ」
「そう……奴の後任はズヘニグだそうだ」
「第七事務補佐官の?」
「ギズが長年外部対応部のトップだったからな……そういえば前はあのギズもまともだったな、覚えてるか?」オドグは頷いた。「で、いつもは認めないのに今回は少しばかり議会が揉めているそうだ……あれでもギズは信頼があったからな……今はズヘニグが暫定的に外部対応部を纏めているようだ」
「しかしこの大事な時に、ズヘニグやペスクトだけで大丈夫か」
「今の所は何とか上手く回っているらしいがな……もうそろそろ行かないと、怒られちまうよ、じゃあな、頑張れよ」
 オドグはふと思い立ち、ナラヴを追った。
「ちょっと待ってくれ」
「オドグか」
「記録者のイェイレル・ネセトウァー・テレクセリを知ってるか」
「レストロイジン人の」「そう」
「彼女なら、もうデルマスィンの家に行ったんじゃないかな。どうして?」
「ちょっと知りたい事があってね」オドグは答えた。


 ナラヴの言う通り、イェイレルはデルマスィンの家にいた。「イェイレルさん?」
「なぜここに」
「ズヘニグという名の外部対応部の第七事務補佐官の住所を知っておられますか」
「教えましょうか」
「お願いします」
 急いでオドグは教えられた場所へと向かった。ズヘニグはどうやら、何の変哲もない一般的なアパートに住んでいるようだった。人目を忍んで階段を上り、目的の部屋へと通じる扉を見つけた。無理矢理扉をこじ開けると、オドグは部屋へと入った。
 オドグは怪しい所を片端から探した。きっと何かある筈だ。しかし事務関係の書類以外は暫く何も見つからず、ふと天井に目を遣ると、一カ所、不自然な箇所があるのを発見した。
 部屋を再度見回した。やはり目立たない所に梯子が置いてあった。天井をそっと押して持ち上げると、空間が現れた。
 大量の書類が積まれていた。どうやらそれは、帝国の言葉で書かれているようだった。「レービス、レービス火山…どうやら、現在最も有力な候補である。サンドリケイシス人の風習もそれを裏付けているようだ。地元の民話もそのように読み取れる。
トルカセニレ島、コルト近辺の火山群…辺境だが、一定の地理的条件は満たされている。しかし、トルカセニレ島自体が元々無人島であり、最近入植地になった事を考えると、候補地としては考えにくい。
エントルス島、レクル火山…既にアルサイドによって調査済み。
クレール島、コスト山…既にアルサイドによって調査済み。
カニント・ゼスラン、セクタン島カニント山…十一月中旬に調査予定。
旧イースラーク、ローヴェ火山…調査済み、既に候補外。
レストロイジン、三号遺跡…レストロイジン人によって厳重に守られているが、彼らの態度を見る限りは候補から外しても問題はないだろう。
ケニムヴェルセス、エルス城…調査済み、既に候補外。
ケルク、エード遺跡…どうやら違うようだ。痕跡は残っているが、完全ではない。
ランマストギル、ゴズ山地…旧首都地域として、数百年前は“守り”の役割があった可能性が高い。
トスキール、ノット鉱山…条件が完全に揃っている。レービス火山に並び有力な候補である。
……………………………………」オドグは紙をめくった。「……十月九日、フューラーシャフトのエンズ支部に連絡、アルサイドにゲハイムニス計画への協力を要請……」フューラーシャフトという言葉は聞いた事がなかったが、エンズは知っていた。元は旧トグレア連邦を構成した国でフィンクという地域だったが、今は帝国に併合されてエンズという一地方になっていた。オドグは確信を持った。
 見つけた書類を入れるだけ袋に入れると、オドグはデルマスィンの家に再び向かった。
「ナラヴ、」
「また来たのか」
「今とても忙しいんだろうがちょっとこれを見てくれないか」
 ナラヴは書類をぱらぱらとめくった。
「これは……一大事だ」


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