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彼等は反逆し得るか? (kankisis) 完
 トルカセニレ島 トルカゾール コルト
 フォルザイルは自室の寝床に寝転がり、天井でもなく、すぐ目の前でもない中空の一点をじっと見つめていた。焦点の合いそうで合わない眼鏡を掛けているような、ひどい感覚だった。まるで、どこかの大男がいきなり殴りかかってきて素晴らしい満点の星空を眺めるような気分だった。ギャムディ亭から真っ直ぐ帰った後、フォルザイルはずっとこうして吐き気をこらえつつ、じっと何事かを考え続けているのだった。
 兄弟だと? 宿命……普段……幽霊だって、そんなこと考えやしない。死んで生きたって、俺には兄弟はいない。いやしない。でもいたとしたら、あいつは正しいぞ……きっと正しいんだ。宿命が普段だろうと構やしないさ。だが、いるわけがない。もうこんなことはやめにするべきじゃないか? それにしても空気が悪すぎる。つまり、『環境』だ――。ああ、光なんて、つまり太陽なんて、所詮地面を唯あっためているだけなんだろう? 目も潰して。地面も唯あったまっているだけだしな。普段だって、きっと生ぬるく暖まっているんだろうよ。あれは――あれは――違う、あれだ。別物でもないんだろう、違うがさほどでもないってことか。死んでも生き続けていいのだろうか、馬鹿。もっと別の……が、必要だ。主張するのにそんなことでいいのか? 本当に? 誰にだって、わかりゃしないさ。俺だってわからないんだ。わかる筈がない。いたとしたら。つまり、兄弟が? やっぱり、正しいことになる。とりあえずはあいつらは死ぬ。そして――すぐに――すぐに? 笑ってやろうか? 口を閉ざしてやっても良いぞ。あいつのために。いや、やっぱり笑ってやるのは後にしよう。しかし流れは本当に変わり得るのか? きっと変えようとするだけでも一仕事なのだろうが……でも、決まっているんだったら本当に変わるとは言えないな。変えようとするのは無謀か? 自分さえ……なのに無茶をしろと。栄光を握りしめたのは誰だ? ちびた栄光なんぞ消えちまえ。馬鹿どもは放そうとしないが、しかしそうでなくてもなかなか落としてはくれないぞ。しかも落ちていても気付かない。たちが悪い。だがあきらめるものか。奪い取ってやれば良いんだろ、結局は。でも、本当に、どうしても、なのか? 嗤ってもいいんだろうな? しかし、いかんせん環境が悪すぎるぞ。まずはこれから何とかしてもらいたい所だが――誰にしてもらえと。無理言うなよ。どうにもならないことを、どうにかしろと。ふん、馬鹿にしているな、馬鹿どもめ。幽霊なんか信じやがって。しかし――やった所で、本当に流れなんか変わるものなんだろうか、いくら頑張っても、どうしようもないものはどうしようもないとしか。いや、わかる筈はない。それに、太陽もそろそろ落ちる頃だから、かわりのものを何か……何か、そう、引き上げてこなくては。それは、何だ? 知っているのか? ……そうだ。あいつは? あいつは。あいつなら、どうだ? わかっているんじゃないのか? そう、あいつが鍵だ。絶対に。……とはいえ、本当に知っているかどうかなんて、知る訳がないんだが――まあ、どうにかなるさ。で、結局あいつらは死ぬことになるんだな。死なない限りはどうしようもない。いや、別に死ぬと決まった訳じゃないだろう? 奴が言っただけだ。絶対にそうとは言えないぞ。しかし、兄弟が死んだとしても、関係ないことだ。苦悩、魂の慟哭、哄笑、発作的な感情の高まり……何を求めるべきだ? 何を得るべきなんだ? それもあいつがしゃべるのか? そうであるのか、なら早く聞き出すまでだ。それならば……どうやる? とりあえずは、行ってみるべきか? や、待て……ああ、あいつの住処はどこだ、どこにある? 居所がわからなかったらやるもくそもないじゃないか! 唯単にてらてらと光っていただけで、要は、結局は、何にもなかった、という訳か。ふん、外側は締まっているくせに、中身が一切ない、すかすかのパンと同じじゃないか! そんなことで、そんなことで、何を得られるというんだ? 何も、わかりゃしないさ。最後には、負けるしかない。どうしようもない。とすると? どうにかできるか? できるのであれば……そんなこと、できるのだとすれば、だが……できるわけはないが……くそ! わかっている筈だ、知っている筈だ、じゃあ、なら、なぜ――なぜ――ああ、こんなこと……する必要なんてないじゃないか、答えられるというのか? まさか、そんなことあるまい。知り得ない! 全く! そうだ! いくらなんでも酷すぎるぞ! 惨すぎる! やめてしまえよ、どうせできっこない! そう、こんなことはやめてしまおう、忘れてしまおう。そうだ、やめるんだ、一切を忘れて、そして、もとの生活を続けるんだ……。それで充分だ、充分だとも。この手で一体何が出来るって言うんだ、他の奴ならまだしも! そう、わかるぞ、何もできやしないということが、自分には無理だということが! さあ……無理なのだから、こんなこと、気にすることもない。必要ないぞ。必要ない…………いや、無理だ、必要だ! どうしてもだ! もはやどうにもならない、一歩足を踏み出したからには、最後まで歩き続けなければならないんだ、どうしても、必要なんだ! これを諦めれば、どんな将来が待っているというんだ? くそ面白くもない人生じゃないか! そうだ、歩き終えたとしても、どんな最後が待っているかなんてわかりゃしない、だが、わかっている! それが、どのようなものかということを! ああ、本当に実行しうるのだろうか、やらなければわからないのだから、やるしかない。やらねば。決行はいつにしようか――明日だ、明日が良い、絶対に明日だ。気が変わらないうちに。ああ、そうだ、どうやってあいつの所に行く? ……そう、明日。ギャムディ亭、あそこであいつを待つ。いや、きっとあいつの方が先に来ている筈だ、近くで動きをじっと待つんだ。ギャムディの奴がちょっかいを出してこなければ良いんだが……ふん、出してきたら何なんだ。無視してやれば良いのさ。簡単なことだ。邪魔が出た所で問題ない。明日だ。明日。それで全てが決まる。流れもだ、忘れてはいけない。これで……決定するんだな。ああ、手に入れられるんだ、これで。そう、決まる。本当に! 明日。明日だ…………

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