War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完 :悲哀 逃げ遅れていた騎士隊のすぐ上を、一本の黒い槍が飛び過ぎて行った。だんだんと加速しているようにも見える。 「あれは……シクザールの槍! 陛下はご無事だったのだ」 ベーオウルフは安堵しながら、槍の行方を見守った。それは巨大生物の額めがけて飛行し、見事に突き刺さった。耳をつんざく絶叫とともに、コカトリスは停まった。 「何てこと……!」 ベラドンナが目を背けるほど、その姿はおぞましかった。頭の中の球状の核らしきものが貫かれ、その周囲の肉が一気に崩れ落ちたのだ。頭だけ骨格と化した生物が、そこにはいた。しかし、体の他の部分は未だに蠢いている。 「まさか」 そのまさかだった。巨大生物は首をひねると尾で槍を掴み、引き抜いた。あっという間に頭が復活する。化け物は、そのまま尾を曲げ、槍を、投げた。 「投げた!?」 「こ、こっちに来るぞ」 「公王陛下が危ない!」 だが、巨大生物の尾と公王を結んだところには、ベラドンナがいた。ベーオウルフが走ったが、間に合わない。 「ベラドンナ!」 血沫。槍は胸甲を貫き、止まった。ベラドンナの顔は硬直している。 「に……兄さん!」 ベラドンナの前には、パイクスタッフが立っていた。胸からドクドクと血を流しながら、ベラドンナを振り返る。 「こいつを公王陛下まで届けてくれ。頼んだぞ、俺にはもう無理そうだからな」 「兄さん! 動かないで!」 パイクスタッフは槍を引き抜いた。一気に血が溢れ出す。それをベーオウルフの近くに投げると、地面に崩れ落ちた。 「ベーオウルフと……うまくやれよ」 「兄さぁああああああああああああん!」 ベラドンナはその上に泣き崩れた。 「やはり効果はないか……一体どうすればいいんだ?」 「こうなるともう俺にもお手上げだ」 その時、再び怪物は舞い上がった。四枚の翼を交互に動かし、青い空に消えた。 「今度はどこへ行こうってんだ……」 「まずいぞ……」 フォルザイルが呟く。 「あっちにはソロントがある」 [*前へ] [戻る] |