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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:閃光
「駄目だ、まだ生きてやがる!」
「退がれ! 退がれ!」
後退を止めていたトスキール軍であったが、再び全速力で走り出した。しかし、巨大生物はそれを追う事は無く、二対の翼を広げた。
「飛ぶ気か!?」
暴風を残して、化け物は飛び上がり、雲の上へと消えた。空からぼとぼとと何かが落ちてくる。
「これは……芋虫?」
再び、巨大生物が姿を現した。レービス火山の上に降り立つと、雄叫びを上げた。
「あいつ、一体何を」
言うが早いか、閃光が煌めいた。レービス火山の周囲はドーナツ状に消し飛び、帝国陣地は壊滅した。森は炎に包まれ、何かが燃える嫌な臭いが吹き上げてくる。全く予想できない事であった。帝国軍も、壊滅したのである。
「……」
複雑な思いで、ヴェスヴィオスは燃える帝国軍を見た。焼けだされた将兵たちが炎の中を逃げ惑う。まさしく地獄の業火と言ったところだった。巨大生物は咆哮する。一部の帝国軍が反撃を仕掛けたが、傷跡はすぐに治癒した。
「無駄だ、逃げろ!」
気付けばヴェスヴィオスは叫んでいた。哀れな帝国軍に同情した? そうなのかもしれない。
「信号弾発射、ここまで誘導しろ!」
「陛下? ……分かりました!」
小高い丘から発煙弾が上がり、緑と赤の帯が空に舞った。化け物にこの意味が分からなければ良いが。それを見た帝国兵たちは死に物狂いでこちらへ走って来た。その後を怪物は足を蠢かせながら追ってくる。
「まずいぞ、また来るぞ!」
公国兵も帝国兵と一緒になって疾走する。例の叫び声が聞こえ、閃光が奔った。もうお終いだ。しかし、閃光は突然方向を変え、雲を切り裂いた。
「何が起こったんだ!?」
「あの男が……!」
皆の背後には膝を震わせながらぼろぼろの盾を持った男が佇んでいた。周囲の義勇兵が驚嘆する。
「フォルザイル!」
「あ、お前あの時の……」
「早く来い! 殺されるぞ」
帝国兵の渦の中にいたレヴァリーがフォルザイルの腕を掴み、トカゲの上に引っ張り上げた。
「お前、その盾をどこで手に入れた」
「島でさ。こんな忌々しいもの……」
「そいつは神器だ。大事にしておくんだな!」
「神器だと?」
レヴァリーはヴェスヴィオスのところまで追いつくと、巨大生物の絶叫に負けないくらい大声で言った。
「奴の体は小さな一つ一つの個体で形成されている! 体を攻撃しても意味が無いんだ」
「この芋虫がそうだって言うのか?」
「そうだ。そいつはただの芋虫じゃない。あいつの体の一部なんだ」
何とも気色の悪い話である。
「じゃあどうすれば良いってんだ!」
「技官に聞いたんだが……どうやら、こいつらを呼び寄せる核のようなものが本体にあるらしい。そこを狙えば!……ただし、通用するのはあいつが造られたのと同じ時代に造られた兵器、神器だけだ!」
レヴァリーは剣をかざした。黒光りするその刃渡りに、ヴェスヴィオスは見覚えがあった。
「こいつの事か!」
シクザールの槍を構える。明らかに、レヴァリーの剣と同じデザインだ。公王は立ち止まり、巨大生物の前に立ちはだかる。槍を大きく振りかぶると、投げた。


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