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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:神器
半壊したコスク城の中で、ヴェスヴィオスはラフィレイドの書斎にいた。膨大な量の蔵書はコルトに移されたが、いくらか書類が残されている。
「兄さんの手帳、だ」
床から拾った埃まみれの黒表紙の手帳を、ヴェスヴィオスはそっと開いた。趣味の詩、考古学の覚え書き、日々の予定。予定は、ラフィレイドが殺された日に途絶えていた。
「……これは!?」
ラフィレイド・トスキールが死亡した当日。彼は、レービス火山に研究旅行へ行く計画だったのだ。神話学に関する研究とある。ヴェスヴィオスの脳裏にコルトで見つけた紙切れが甦る。ああ、アルバートが生きていれば! 兄の時代も宰相だった彼なら、何か知っていたかもしれない。確か、メモにはレービスの事と、伝説、それに帝国の諜報機関……フューラーシャフトの事だろう。そして神器。それらに何の関係があるかは分からなかった。神器の伝説、という程度は予想がつくが……。その上、ネレイデ・シュネーヴァイスが最後に言った言葉。兄は、フューラーシャフトの何らかの企みに気付いてしまったのだろうか。
「そうだ、神器は……」
アルバートがネーズルとの交渉のとき持ち出したのは神器の模造品だった。本物の“シクザールの槍”はここにある。ヴェスヴィオスは記憶を辿りながら書斎の本を一冊ずつ決められた順に引いてゆき、七冊目を取り出したところで重しのからくりが動き、本棚が左右に開いた。その奥は王族しか入る事を許されない石造りの神殿になっている。
「久しぶりに入ったな、十年ぶりか……」
中央の台座に、黒光りするものが置かれている。細長く、先端が見えないほど尖っていた。やはり贋作とは似ても似つかず、材質が金属なのかセラミックなのかすら定かではない。
「シクザールの槍、運命を定められた槍」
小さい頃聴いた歌のフレーズを、ヴェスヴィオスは思い出した。ひんやりした感触のそれを、持ち上げてみる。意外と軽かった。
「その主のところへ戻るだろう」
柄の部分に、見た事の無い紋章が刻まれていた。トスキール家の家紋に似ていない事も無いが……。
「なんだ、こいつ」
槍の裏についていた芋虫を、ヴェスヴィオスは弾き飛ばした。


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