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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:再起
神暦一〇一二年、三月六日夜半。ロイド川河畔の地下遺跡に、動きがあった。トスキールの全軍とトルカセニレの義勇軍が集結し、陸将の言葉に耳を傾けている。諜報対策のこともあり、直前まで誰一人として作戦の全容を知らないのだ。しかし、直前までというところが重要なのである。帝国軍の兵士は最後まで自分の行動の意味を知らずに死ぬ場合が多いが、公国軍の兵士は自らの役割をよく把握しているのだ。
「諸君! 聞こえたらよく聞け! 聞こえなかったら後で上官に聞け!」
フェルドランスが大声を上げる。さすがに二万五千人に一度に言葉を伝えるのは難しい。
「明日の正午、我々はコスクに向けて突撃する! 現在コスクは帝国軍の手により要塞化しているが、国境線でネーズル軍が陽動作戦を行い敵を誘き出す」
フェルドランスは巨大な地図を竿で突いた。
「コスクを急襲し一挙制圧した後、王立軍と交戦中の帝国軍を背後から挟撃、包囲殲滅する」
何とも大胆な作戦であるが、そうする他に方法がなかった。公国に劣らず帝国の戦力もこの三年間で増強されており、まともに戦ったのでは結果が見えているのだ。
「明日未明に出発する。良く休養を取っておくように」
将兵は居住区へ散った。

そして、三月七日。ネーズル王国とトスキール公国の国境線であるアルトム川のケレントタストン側の河岸に、色とりどりの装甲服をまとったネーズル国境合同部隊が集結していた。意図的に情報を漏らして、帝国軍を誘い出す段取りになっている。
「エアフォルク将軍殿、始めますか?」
「ああ。今回は出来るだけ派手にやるぞ」
架橋工作部隊が広大な川に急造の橋を渡し終えると、堤防が決壊したようにネーズル軍はトスキールになだれ込んだ。
「とにかく南下しろ! そのうち会敵する筈だ」
ところが、一時間ほど進軍しても敵は全く姿を現さなかった。おかしい。確かに帝国はネーズル軍による侵攻を知っている筈なのに……。
「将軍殿、これは何かの罠でしょうか」
「我々の方が罠を張っているのだ。その我々を嵌めようなどと、無理な話だ」
顔を真っ青にした偵察兵が本部隊まで逆走してきた。敵と遭遇したかのような勢いだが、特に外傷は見受けられない。
「どうした」
「この3Rz四方、敵は影も形もありません! 奴らは、挑発に乗ってきませんでした」
「何だと!? ネーズルがロイドを手にしても問題がないというのか!」
何故だ? いや、この場合答えは一つしかないだろう。悟られたのだ。
「まずいぞ、連中は陽動に気がついている!」


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あきゅろす。
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