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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:抵抗
「やっと、帰ってきたのか」
砂の上に倒れたまま、上を向いた。雲一つない空に、星が散りばめられている。次の瞬間、怒号と共にヴェスヴィオスの視界に狂気の顔が飛び込んできた。
「動くな! ……動くと公王の命はないぞ」
「何だ、お前たちは!?」
上陸船の兵士たちにも槍が向けられ、船内から出ないよう指示された。公王が四方から槍を突きつけられているので、打って出ることもできない。
「よくも抜けぬけと帰ってきたな、トスキール」
一人だけ銃を持っているリーダー格の男が言う。ぼろぼろの服に裸足で、さしずめ狼男といった形相だ。
「何故だ。何故我々を敵視する? 君たちは何者なんだ」
フェルドランスの問いに、男はゆっくりと答えた。
「我々は反帝国地下組織、レヴォルトだ。現在トスキール北部はわれわれの占領下にある……国を捨てた者に、ここを取り戻す権利はない」
「違う……」
公王は立ち上がりながら言う。
「動くな!」
「違う。オレは、この国を捨てたりなんかしちゃいない」
「そうだ! 今こうして帰ってきたじゃないか」
フェルドランスも加勢するが、相手は聞く耳を持たない。
「一体どうしたんだ……って、ハイビンダーじゃねえか!」
「お前は、レオナルド・ラインハルト!」
船の先頭までやってきた海将と反乱組織の頭領が睨み合う。ハイビンダーと呼ばれた男は、ラインハルトに銃を向けた。
「おいおい、銃はよせよ。何だあんた、山賊稼業を辞めた後は反乱ごっこか?」
「そういうお前は海賊から海将に成り上がったのか」
ラインハルトはフッと笑うと、言った。
「変わらないな。なあ、分かってくれよ……いや、お前が一番よく分かっているか。男にとってな、逃げることは勇気のいることなんだ」
「そんな御託を並べているのを聞く暇はない!」
ハイビンダーは今度は公王に銃を突きつけた。引き金に手をかけている。
「今すぐ立ち去れ。お前たちは俺たちの国を見殺しにしたんだ。お前たちがすぐにでも援軍を送っていれば、ネイツ王国は滅びなかった。お前たちは交渉の直前まで選択を避け続け、成行きで開戦したかと思えばネーズルに逃げ込みやがった」
「まて、あの時は公王が殺されて政治的な混乱で収拾がつかなくなっていたんだ」
「そんな言い訳が……!」
言い終わる前に、ハイビンダーの銃が弾き飛ばされた。ヴェスヴィオスを取り囲んでいた男たちは既に気絶している。背後から現れたのは、パイクスタッフだった。
「すみませんでした、公王陛下。まさかこうなるとは思ってもいなかったので……」
「ジャック、お……お前……!」
「ハイビンダーさん、考えてもみなよ。あの時は、ああする他はなかったんだ。今から我々は帝国を打倒する。だが、それが三年前にできただろうか? 三年前にこの屈強な陸軍兵が揃ったか? 三年前にこの大艦隊を編成できたか? 三年前に国民の安全を守りながら戦争ができたか?」
ハイビンダーは何も答えない。
「今まであんたの部下として働いてきたから分かるが、あんたはどうすればいいか本当は知っているはずだ。レヴォルトだけじゃ、帝国はいつまでたっても追い出せないって……」
「どうも怪しいと思っていたが、お前はスパイだったのか。まあいい。ここまでだったということだ」
頭領が合図をすると、民兵達は槍を立てた。公王が不自然な姿勢から解放される。ヴェスヴィオスはマントについた湿った砂を払い落とすと、ハイビンダーの正面に立った。
「オレたちに協力しないか」
「何だって? そいつはごめんだね」
嘲るように言うと、彼は自分に短剣を向けた。
「あんたに協力するくらいなら、死んだ方がましだ」
「どうしてそこまで……」
「待て、敵を取り違えるな。志は同じでなくとも帝国と戦うことはできるはずだ。我々は何もトスキールが解放されればそれで良いという訳ではない。トグレア連邦の復活こそが真の勝利だ。我々に協力してはくれないか」
フェルドランスが言うと、ハイビンダーは苦虫を噛み潰したような顔をして、答えた。
「分かった。一時休戦だ。後、拠点も一つくれてやろう……だが、作戦は別行動にさせてもらう。それで良いか」
「構わない。いやむしろ最高だ」
「そうかい」
ラインハルトが安全を示す信号弾を打ち上げると、非常命令のもと不安げに待ち続けていた上陸船が続々と接岸を始めた。ハイビンダーの指示で、レヴォルトたちが撤退を始める。
「さて、我々は帰って来たぞ」
改めて、公王が大地を望む。
「オレたちのトスキールだ」


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あきゅろす。
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