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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:喪失
「ヴェス…ヴィオス様……」
息も絶え絶えに、老人が言う。純白のシーツの上に、浅黒い顔が不自然だ。
「どうした、なあ、アルバート!」
宰相は昨年の暮れから急速に衰弱し、今では食事をとるのも困難になっていた。ある宴のルピー酒に毒が混ぜられていたのだという噂もある。とにかく、彼は死の淵にいた。
「陛下……」
彼の功績は素晴らしい物だった。彼が交渉を成功させなければ、フェルドランスは討ち死にし、ラインハルトは大海原に漂流していたことだろう。ヴェスヴィオスを常に支えてきたのも彼だった。
「お体に、気をつけて……」
おおよそ辞世の句らしくない言葉を残して、アルバート・ナイファーは事切れた。
「アルバート……」
公王は深く辞儀をすると、立ち上がった。
「彼は宰相として賞賛すべき、そして人間として尊敬すべき人物であった。彼の遺志を継ぎ、その大志を我々で再現しようではないか。長い雌伏の時は終わった。今こそ、我がトスキール公国の帰るべき場所を取り返す時が来たのだ!」
参列していた兵士が三声を上げ、その声は寝室から廊下、中庭、ホールへと響いた。

神暦一0一二年、二月十四日。再建されたトスキール海軍の雄姿が、コルト湾内を彩った。奥地へ逃走した帝国上陸部隊を殲滅して以来訓練には事欠かなかったトスキール陸軍が港に整列している。反撃の準備は整ったのだ。
「全軍、乗船せよ!」
ひげを伸ばした男の号令で、陸軍は士隊別に上陸船に乗り込んだ。彼が考案した度重なる船上訓練のおかげで、船酔いをする兵士はもうほとんど居ない。この男こそ、フェルドランスである。
「コルトを出港後,海岸沿いに本土に接近。ロイドから上陸する」
ラインハルトが作戦を説明した。全軍二万を一挙に上陸させる、大揚陸作戦である。大型艦十数隻に、無数の小型船。その中に混じっている中型武装商船は、北洋貿易連盟の有志だ。
「コライン、後のことは頼むぞ」
「何なりとお任せを。公王陛下」
ナイファーの後任となったコライン・ジネスである。ヴェスヴィオスも作戦に同行するので、国民の指導は彼に任されるのだ。前宰相よりはるかに若いが、元財務官としての実績がある。
「よし、出港だ!」


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