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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:提案
薄暗くなって来た。二人は火を起こし、浅瀬で運良く捕まえた魚と、小さな肌色の貝を焼いて夕食をとった。二人の間にあれきり会話はなく、ひたすらすべきことをしていた。今夜は何とか凌ぐことが出来そうだが、この島で一体何日間生き延びられるのだろう。船の残骸とともに流されてきたようで、ここがどこなのかは見当もつかない。極限状態に置かれる前に、命を絶った方が良いのだろうか……。
「アイグレット、と言いましたね」
「ああ」
「貴方、なぜ船に乗っているの」
意外な質問だった。
「何故、か」
しばらく思慮の海に沈む。顔を上げようとしたとき、彼女から口を開いた。
「私は海を愛している」
ロマンチストだな、というのが彼の抱いた感想だった。生活のためと言おうとしていた彼がばつを悪くするのも当然である。
「僕は……何だろうか」
「良かった」
彼女は顔をほころばせた。
「もし『公王様のため』と即答でもしたらどうしようかと思ったわ」
言いながら、ネレイデは作業を始めた。集めてきた小枝を三つの山に分け、ポケットからアイグレットが見たこともないほど小さな銃を取り出す。撃鉄を薪にあてがい、着火した。
「あなた、私と来なさい」
突然の提案に、言葉の意味が理解出来なかった。
「私と、ローゲンに来るのよ」
三つの焚き火から煙が立ち上り、浜辺を明るく照らす。その時、水平線から緑色の信号弾が上がった。
 
戦闘は終了した。ノメイルの飛行部隊により空中砲台は全滅、突如として帝国艦隊は後退した。狂い立つように沈んだ船の乗員の救助を始めたかと思えば収容出来ない人員を海に投げ戻すという奇行に走り、一通り確認が終わると撤退した。探している人物でも居たのだろうか? 不要と判断され、海を漂流している人々は連合艦隊が救出した。
「素晴らしい働きだった。私から礼を言おう」
着陸したノメイルの傭兵に公王が労いの言葉をかけたが、それが流暢なワ・テクスであることに宰相は腰を抜かした。
「こ、公王陛下! 何時の間に……」
「何のことだ? ああ、とある先生に教わった」
話せるなら、この前の会合まで翻訳者をわざわざ付けていたのは何だったのだと思う。
「今の戦いの最中に練習して、完璧になった」
ヴェスヴィオスは傭兵たちに向き直る。
「君たちのおかげで、見ての通りコルトは無事だ。それにしても、見事な戦いぶりだった」
「いえいえ、ノメイルの傭兵たるもの、任務の完全な遂行は絶対です。これからも有事にはノメイルの傭兵部隊を贔屓にしてください」
公王はニコニコと笑っている。
「……なあ、アルバート。今こいつ何て言ったんだ?」
リスニングは駄目なのか。


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あきゅろす。
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