War Chronicle of Toskiel（紺碧の空）完
：迎撃
時間は少し戻る。アイグレットが気を失った時、帝国艦の最初の一隻が、コルト湾口に到達していた。連合艦隊では到底無敵艦隊に数が及ばず、多くの船が防衛線を突破したのだ。帝国艦は猛砲撃を加えたが、急作りの城壁はよく耐えた。もしこれがコスクであればとうに焼け野原になっていたはずである。
「敵が来る！ 全砲、斉射準備！」
想定されていた事であった。港の中に入るが早いか、内側に向けられた対艦砲が火を噴き、ローゲンの駆逐艦は爆沈した。だが、帝国海軍も伊達ではない。平底の上陸船が桟橋を吹き飛ばしながら接岸した。精錬された強襲部隊がコルトへ侵攻する。住民の避難は、既に完了していた。
「槍士隊、迎撃行動に入る」
民家の間に潜んだ槍兵が、所々でゲリラ戦を展開した。結果的に岸まで辿り着いたのは三隻だけで、孤立した上陸部隊は後に奥地へ逃走、一ヶ月近く公国を悩ませる事になる。
空中砲台部隊は、コルトの上空に辿り着くまでにその四分の一を失っていた。アプゾルートが精密な狙撃で先駆けを撃ち落とし続け、遂に弾切れとなった。そこへ“灯台要塞”の花火弾が炸裂し、多くの砲台が灰になった。新開発された対空弾には小さな金属球が詰め込まれており、散弾のように上空で四散するのだ。だが、帝国もローバスルでの教訓から編隊間を広くとり、一網打尽にされる事は無かった。二重になった天蓋が爆弾を防いだが、同じ場所に着弾すると目も当てられなかった。
「だめだ、到底守りきれない！」
「何としてもここで足止めするんだ。この先には国民と公王陛下がいるのだぞ！」
ベラドンナの気迫で、それだけで兵は戦っていた。対空部隊の迫撃により、帝国軍は迂闊にコルト上空へ近づけなかった。そこへ、である。
キュルルルルウアアアア！
矢のように飛翔して来たそれは、空中砲台の布製三重ハニカム構造の空気袋を貫き、苦もなく反対側へ飛び去った。一度の突撃で五隻程の砲台を撃墜すると、翼を大きく羽撃かせて旋回し、次の攻撃に移った。十頭程のそれは遠目には竜のように見え、肩に人影を乗せていた。アプゾルートの砲撃と要塞の迎撃でその半数を失っていたローゲン空軍は、ものの三分で全滅した。そう、あれは、ノメイル傭兵部隊！
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