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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:緊迫
爆撃の火焔は、トルカセニレ島からも見える程であった。ゾールの観測報告はすぐさまコルトに伝えられ、緊急閣議が始まった。不安げな顔のトルカセニレの重役が席を連ねる中で、ヴェスヴィオスは静かに話しだす。
「我々は今、大いなる危機に直面している」
「本当に大丈夫なのか。エズスは消えてなくなったと聞く」
統領が神経質そうに尋ねた。今更になって、トスキールを受け入れた事を後悔している様子だ。
「大丈夫です、勿論。我々は既に、コルトの要塞化に着手しております。国民の失業対策の一環です」
ナイファーが言うと、それらしい説得力を持った。何となく安心した気分になった出席者たちであったが、一人の発言が恐怖を再び呼び起こした。
「しかし、いかなる城塞を築こうとも、帝国の空中砲台の爆撃には耐えられまい。また、無敵艦隊の艦砲射撃があっては、勝ち目はありませんぞ」
重い沈黙を、公王が打ち破る。
「我々も一隻の空中砲台を保有しています。その上、遠く東国のノメイルに依頼して対空部隊を編制しました」
閣議室がどよめいた。意地でも反対意見を張ろうとする者、それなら安心、と胸を撫で下ろす者。だが、その直後公王が作戦を発表すると、人々の顔は硬直した。

本陣がある森からコルトの町を挟んで反対側、通称“灯台要塞”。元々あった灯台を基盤にしてわずか一ヶ月で完成にこぎ着けた代物であり、要塞というよりはピラミッドに近い。
「馬鹿者! 何をしている」
ベラドンナの甲高い声が響き渡る。それだけで、大抵の兵は竦み上がった。
「こんな物で遊んでいる場合だと思ったか。今すぐ港の警備に回れ!」
ベラドンナは花火の筒を掴み上げた。困惑気味の騎士が言う。
「ですが、我々は命令された通りにしただけで……」
「誰の命令だ!?」
「私だ」
火薬倉から姿を現したのは、誰あろうベーオウルフであった。ベラドンナに言わせれば、騎士隊の顔に泥を塗りたくった敵である。
「貴様……」
「君はローバスルでの戦いを知らない。火薬が敵の空中砲台に対して十分な威力を発揮する事は証明済みなのだよ」
「裏切り者の言う事など聞いてたまるか」
女騎士は頑に彼を拒絶した。その目には軽蔑の色があった。
「大体、貴様、本国に娘を残してきているのだろう? 兄さんから聞いたぞ。今頃は殺されているかもしれない……お前の所為でな」
「ああ、あれはその場凌ぎの嘘だ。俺は独身だ」
ベラドンナの鉄拳が飛んだ。


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あきゅろす。
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