War Chronicle of Toskiel（紺碧の空）完
：亡命
「本当に、本当に、ご無事で何よりでした」
アルバートは深々と頭を下げたが、ヴェスヴィオスは軽く受け流した。
「で、アルバート。オレたちは一体どこに行けば良いんだ？」
「そうだ、このまま大海原をうろつくわけにも行かんぜや」
「はい、ネーズル王国の外交官の方の説明によると、この北にあるトルカセニレ島に難民キャンプを設置するそうです」
「なるほど……つまり、ネーズル王国は完全に我々の要求を受け入れてくれたっていうことか。ナイス、アルバート！」
「お褒めに与り、光栄で御座います」
トルカセニレは、北大陸の北西にある大きな島で、土地の痩せた南部と、冷涼な北部の湿地帯からなる入植地である。とりあえず寝る場所はある、ということか。アルバートの話によると、島の南東部に位置するコルトという港に向かえば良いらしい。
「しかし、ノメンズ海を補給も無しに縦断するってのは、そりゃ無理な話でさ。なにしろ、こっちは国民の十分の一を乗っけてるんでね」
ラインハルトの進言により、一行はエズス諸島に寄港することとなった。
(しかし、運が良かったものだ)
ヴェスヴィオスは思った。ローゲンの無敵艦隊は、全く追ってくる気配を見せない。大方、彼らはこれでトスキールに勝ったと思い込んでいるのだろうが、それはお笑いだ。必ずや、機をつかんで奴らから本土を奪い返してやる。そのためには待つことが重要だ。
｢後方、空中砲台！｣
見張りが喚いた。皆が空を見上げる。アイグレットが叫んだ。
｢待て、あれは敵じゃない！｣
空中砲台は高度を急速に下げながらラストロストリウスの真上を通過し、そのまま海面に激突した。船体は大きな水飛沫を上げると再び浮かび上がり、今度は海流に乗ってだんだんとこちらに近づいてきた。
｢陛下ぁあ！｣
浮き袋の上に乗って手を振っている大柄な男は、紛れもなくパイクスタッフであった。
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