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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:追撃
 フェルドランスが病室で目を覚ます頃、ヴェスヴィオスとラインハルトはコルトの下町にいた。
「なあ、レオナルド。お前、共通語がわかるんだろう?」
「はあ、さっき聞いて分かったと思いますが、少しなら、でさ」
「それならちょっと通訳してくれないか」
公王は薄汚れた居酒屋へと入り、中を見回した。一人の男が、端から四番目の席で、俯き加減に酒をすすっていた。
「彼の名前を聞いてくれ」
「オマエ、ナマエ」
海将が片言のワ・テクスで尋ねる。男は顔を上げてこちらを見据えると、一言だけ言った。
「フォルザイル」
静寂。
「フォルザイル、だそうです。公王さん。こんなこと聞いてどうするんでさ?」
「共通語を教えてほしい、と伝えてくれ」
「はぁ、オマエ、ワタシ、オシエル、ワ・テクス」
フォルザイルと名乗った男はしばらく眉を顰めていたが、合点が行ったのかゆっくりと首を縦に振った。

 ここで、少し時間を遡る。コスク湾海戦から一週間。新たにディンラック地方の州都となったコスクで、無敵艦隊が改装工事を行っていた。四角帆の艤装が降ろされ、ラティーン・セイルが取り付けられているのだ。
「一週間後には、第二艦隊が到着するそうです」
「わざわざ弟のネストルを呼ぶ羽目になるとはね……」
ネレイデは肘をついて湾を眺め、大きな溜息を漏らした。後ろでカリギュラが鼻を鳴らす。
「信じられん。奴らは何もかも見通していたかのようだ……目当てのノット鉱山の採掘施設も既に爆破されていたという話だ」
カリギュラとしては、これは居ても立ってもいられない事態であった。大軍を投入してロクな戦果も無く、本部で指揮官としての資質が疑問視され始めていたのだ。
(我々はただ、フューラーシャフトの指令通りに動いていただけであるというのに)
彼はグラスを強く握りしめた。ここで砕け散ると格好が良いのだが、彼にそんな力は無い。その時、レヴァリーが部屋に入ってきた。
「シャフトの方から連絡が入りました。“トスキール人ヲ一人モ生カシテオイテハナラヌ”だそうです。戦力は幾らでも割いてくれるそうですが」
「これで負けたら我々は本当に終わりだな……」
「そうね」
彼らを蔑むかのように、シロガラスたちが啼き喚いていた。

 冬がやって来た。アイフェル渓谷は大雪に埋まり、はるか北のコルトの町の家並も白く輝いていた。トルカセニレの北端に今年最初の流氷が流れて来たというニュースが新聞の二面に載る頃、ローゲン帝国無敵艦隊は動き出した――――前回の教訓により、ラティーンセイルを装備して。また、上空には空中砲台の大部隊が無数に散開しており、それぞれに10ウェル近くもの重さの爆弾を抱え込んでいた。フューラーシャフトの工作員からの情報をもとに決定された目的地は、エズス諸島であった。

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