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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:疑問
 トスキール公国政府がトルカセニレ島に亡命してから、二週間あまりが経過した。初めはコルトの人々も腰を抜かしたが、そろそろお互いの存在に慣れてくるという頃であった。公国の存在は近年寂れつつあったコルト町に多大なる経済効果を生み、新聞(島と大陸の様子を知り合うのに最も有効な手段であった)には“第二のコスク”と評されるまでになった。
「まことに、すばらしい限りで御座います……おかげさまで、コルトの貨物量は以前の五倍以上にもなりました」
コルト町長が揉み手をして言った。急造の閣議室にはフェルドランスを除く大臣たちが臨席している。
「こちらこそ、あなた方が快く我々を受け入れてくれなければ、大海原に取り残されていたことでしょう」
アルバート・ナイファーが流暢なワ・テクス語で答える。公王は怪訝な顔をして、海将に尋ねた。
「なあ、こいつら何を言ってるんだ?」
「ああ、あれは共通語ってやつでさ、公王さん。多分トグレア語に翻訳すると、今あっちの青い服のおっさんが“確かに、偉大なように……デゴザイマスのおかげで、コルトの貨物量を超える前の5倍増する”と言って、じいさんが“ここでしか、するか、または、私たちは喜んで受け入れるようになっていない海に取り残される”と答えたんでさ」
「そんなわけないだろう!」
宰相は一喝した。全く、仕事中のナイファーにしてみればひどい妨害である。町長は自分が怒鳴られたのだと勘違いして、深々と礼をしたまま部屋から飛び出していった。
「なあアルバート。そういえば、帝国の連中は普通の言葉を喋ってたよな」
「ええ、そうで御座いますとも、陛下。帝国を含む北大陸の大半の国では、旧標準語、通称トグレアンを話しています。むしろ、このネーズル王国が異常なのです……しかしながらワ・テクスは優れた言語であり、私に言わせれば旧標準語は不合理で原始的です」
「よくわからないが、結局何でワ・テクスが共通語なんだ」
「言語体系が確立されていますから……ワ・テクスは、どうやら最近に作られた言語のようです。数百年のうちにネーズル王国内では普及しましたが、確か十年くらい前に、トグレア連邦に押しつけられるような形で共通語になったので御座います」
「へえ」
公王はどうやら納得したが、ラインハルトは理解していないようだった。数百年が最近だって?
「それにしても、トスキールとローゲンの言葉はよく似てるよな」
「確かにそうですが、トグレアの南部と帝国はもともと貿易が盛んでしたので……初めの頃は、併合はむしろ相互の意思で行われていました。民族的にもネーズルよりもローゲンの方が我々に近いのです」
「それなら、何でオレたちは戦わなきゃいけないんだ……?」
どうして兄さんは殺されなきゃいけなかったんだ……ヴェスヴィオスはそう言おうとして、やめた。感傷的になりすぎてはいけない。元の決心を揺るがすことは民族全体の危機につながってしまう。
「何でって、そりゃ公王さんが決めたことでさ」
ラインハルトは軽く言った。
「何があっても、俺は公王さんに従いますぜ」
その時、臨時閣議室に港湾管理局の役人が入ってきた。
「公王陛下、ボレイゲンから船団が到着しました!」

 増設された防壁の陰から、十数隻の大型船が姿を現した。ネーズル国旗を掲げたガレオン船は、甲板に兵士を満載しており、コルトの小さな櫂船の誘導に従って入港し、桟橋に横付けした。
「フェルドランスの奴だ。よかった、助かったんだな」
ラインハルトが胸を撫で下ろす。舷梯が渡され、陸将が降り立った。
「グ……ハッ」
彼は桟橋に倒れこんだ。その後ろから出てきた兵士たちもその上に積み重なる。
「全員、船酔い致しましたぁ!」
船員が声高に叫んだ。

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あきゅろす。
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