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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:寄港
 神暦一〇〇九年十一月六日。エズス諸島最大の島、東島に大船団が現れた。大型船は五十隻以上、小型船は数知れず。その上空中砲台を曳航しているときたので、島の頭領であるドゥルデンは目を疑った。さらに驚くべきことには、一番巨大な戦艦から王族らしき人物が降り立ち、彼にこう言ったのである。
「腹が減ったから、飯をくれないか」
エズス人は根っからの商人である。そう簡単に物を譲るようなことはしない。それは、ヴェスヴィオスも承知の上だった。
「もちろん、タダでとは言わない。ほら、あれ全部あげるからさ」
いい加減な態度の公王が指さす先には、王室の金庫から持ってきたありとあらゆる財宝があった。無論、その日東島の食糧庫は空になり、後に黄金の島と呼ばれるいわれとなったのである。結果的に公国の民は空腹という言葉から暫く遠ざかることになるのだが、トスキールの老宰相がその取引を見た途端気を失ってしまったのは言うまでもない。

 停泊しているラストロストリウスの艦上に、二人の男がいた。共にかつては帝国の人間であった者たちだ。ルフトツークは、ベーオウルフに言った。
「あいつが……あいつが、僕の部下を皆殺しにしたのか」
彼はヴェスヴィオスを凝視した。今にも襲いかかりそうな形相だ。慌てて、ベーオウルフが制した。
「待て、ルフトツーク。お前は、自分が何をしようとしていたのかを判っているのか。お前は爆撃で、多くの罪無き人々を殺戮しようとした。それを彼は止めたんだ。むしろ、感謝すべきだろうよ」
正論であった。しかしそれ故に、彼の心を痛めつけた。
「そんな事が理由になるか、なるもんか。戦争とはそもそも殺し合いだ。僕の何が間違っていたというんだ」
ベーオウルフとて、帝国の人間であったはずだ。それが何を言うんだ。裏切り者に言えた口ではないはずだ……。だが、ベーオウルフは畳み掛けるように言った。
「でも、聞いたところによると、君らの艦隊がすぐに離脱しなかったからまた被害が拡大したそうじゃないか」
「それは……」
ルフトツークは俯き、手すりの節目を見つめた。沈みゆく砲台に乗った部下たちの悲痛な叫びが脳裏に蘇る。その時彼は気付いた。自分は自らの過失から逃げていたのだ。逃避であったのだ。彼は、絶望的な現実から目をそらし、全ての責任を敵であったヴェスヴィオスに押し付けていたのだった。空を見上げ、ルフトツークは一人呟いた。
「僕は、間違っていたのだろうか?」

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