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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:風向
「封鎖線を突破しました!」
 船団最後尾の旗艦“ラストロストリウス号”でこの報告がなされたということは、トスキール海軍は勝利したも同然であった。その筈であった。船員たちは歓声を上げたが、海将は苦々しい顔をしていた。
「まずいな、風が南寄りになってきている……」
ラインハルトの顔を一筋の汗が流れた。この季節に南風だって? こればかりは、運を天に任せるしかない。状況を公王に伝えようと後ろを見ると、彼は戸惑う船員に熱心に羅針盤の仕組みを訊いていた。あまりにおかしな景色に、思わず海将は笑った。そう、この男なら……負けることはあるまい。
「よし、方向が南であれ地獄であれ、そのまま風に向かって進め! 大丈夫、風は絶対俺達の味方だ!」

「奴ら、一体どこへ向かうつもりだ?」
 トスキールの船団が大きく南へと転針しているのを見て、ネレイデと帝国海軍将校たちは首をかしげた。まさか、バイデクルト軍港でも襲うつもりか?
「どうします? 向かい風では我が軍の船は動きませんが」
「それなら、オールでも使って漕ぐことね! 全く、だからあたしはラティーン・セイルを導入しろと言ったんだ」
だが、南に逃げてくれるなら話は早い。バイデクルト軍港には、弟ネストル・シュネーヴァイスが指揮する第二艦隊が待機しているから、何とか挟み撃ちに出来るはずだ……しかし、公国軍もそれくらいの予想はついているはずだ。相手方の提督は気でも違っているのだろうか?
「歯がゆいものね。敵は目の前にいるのに……」
その時だった。北から一陣の風が吹いたのだ。ネレイデの長い髪が吹き流れ、ボレアリス号のマストが風を受けて軋む。
「あ……ネレイデ提督、風向きが変わりました! これなら追い風です」
「あら、本当ね! 全速前進、急いで帆を張りなさい! このチャンスを逃すわけにはいかないわよ」
人命救助を終えた巨艦は、公国船団目指して動き出した。


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あきゅろす。
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