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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:友軍
「風に向けて進め! 西風に正対した進路を取るんだ」
 海将ラインハルトが指示を出すと、船団は向かい風の中へと突き進んで行った。
「おい、レオナルド。帆船ってのは追い風の方がスピードが出るんじゃないのか?」
「確かにそうです、公王様。でも、見て下さい。奴らの船は四角帆を使った旧式な艤装です。あれだと追い風のときは良いんですが、逆風のときは著しく機動力が低下します」
ほう、と感心しながらヴェスヴィオスは前方の無敵艦隊を観察した。
「それに引き換え、トスキール海軍の戦艦は三角形のラティーン・セイルを装備していますから逆風でも十分速度が出ます。追い風では帝国にかないませんがね」
そう言っている間に、先頭の船と帝国艦が砲撃戦を始めた。ラインハルトがどら声を上げる。
「敵艦に構うな! 全速力で突破しろ」

 その頃、トスキール陸軍は既にレヴァリーたちの視界から消え去っていた。
「してやられましたね」
コスクに突撃した部隊の話では、町には人っ子一人おらず、およそ持って行けるものは既に持ち去られていたというのである。戦利品を心待ちにしていた兵たちの士気は一気に下がった。
「うるさい。酒がまずくなるわい」
カリギュラはとうに追跡を諦め、自棄酒に浸っている。考えてみれば、彼が自分の命を救ったのである。レヴァリーはこれまで快く思っていなかった上司の新たな面を見た気がした。
「先程は、有難う御座いました。そういえば、アルマダの方はうまくやってるんでしょうか」
「フン! どんなに勝っても結局何もかも海に沈んじまうよ」

「振り切ったか?」
 フェルドランスが後ろを振り向くと、帝国軍の姿はもうどこにも見えなかった。うまくいったのである。
「被害状況は? まだ取り残されてる部隊はいないか」
新参謀の銃士隊隊長が息を整えながら答える。
「将軍、全軍包囲を突破しました。ですが、現時点で剣士隊の第7小隊が全滅、銃士隊の第3、第4、それに弓士隊の半数がやられています」
「騎士隊は第5小隊を除いて無事です」
ベラドンナが付け加えた。これでも、被害は少なかった方だろう。だが、油断は禁物である。偵察兵が金切り声を上げた。
「前方に敵部隊を確認!」
「まだいるのか!」
敵は多数の騎馬隊だ。ふと、フェルドランスの頭に疑問が湧き起こった。彼らは揃いの装甲服ではなく、色とりどりの鎧を着けている。ということは……。
「あれは帝国軍じゃない! ネーズル王国の王立軍隊だ! 応援に来てくれたんだ」
公国軍に歓声が上がった。なんだ、やるじゃないか、あのじいさん宰相め。
「遅れてすまない! 諸君らの援護に馳せ参じたネーズル国境合同部隊である! 無事か!?」
隊の先頭にいる壮年の将校が叫ぶ。フェルドランスが手を振って答えると、彼は腰を抜かしてしまった。
「トスキールでは少年が軍を率いているというのは真であったか」
「ええ、確かに」
トスキール陸軍将軍はウサギを降りると、将校に握手を求めた。
「増援感謝します。まだ帝国軍は近くに潜んでいるはずです。撤退の後方支援をお願いします」
「引き受けましたぞ」
総数一万程であったトスキール軍は、増援三万を得て確実に北へと向かった。


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あきゅろす。
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