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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:急襲
 ベラドンナが駆け付けた時には、公国軍陸将と帝国軍将軍の周りに大きな人だかりが出来ていた。両軍は戦っていることも忘れて、二人の戦いに魅入っている。
「あんた、なかなかやるね。さすが勇将レヴァリーだ」
「君こそ、若い割に熟練している」
決闘はどちらが勝つとも言えないきわどい戦いで、観衆に息をのませた。だが、ベラドンナには、フェルドランスがわずかに押されていることがわかった。激しい剣劇の末、疲れが見え始めている。
「将軍殿、もうよして! 今あなたが殺されるわけにはいかないのよ!」
「うるさい! 今は黙ってるんだ」
その時だった。レヴァリーが必殺を念じて一撃を振り下ろしたのである。しかし、相手が子供だということに躊躇ったのだろうか、相手の疲労を過信したのか、一瞬の隙を作り、フェルドランスに剣を弾き飛ばすことを許した。
「覚悟!」
今度は、レヴァリーが剣を突きつけられる番だった。だが、再びフェルドランスに危機が訪れた。兵たちの声を聞いてゆっくり後ろを振り向くと、そこには剣を突きつけるカリギュラの姿があった。
「背後からとは卑怯な……今は決闘中だ!」
「黙れ! 目の前で部下が死ぬのを見過ごすわけにはいかん。今は戦争中なのだ!」
両軍は一気に興ざめし、思い出したかのように互いに剣を構えた。
「さて、その剣を下してもらおうかな? 若き陸将殿」
フェルドランスが観念しかけたその時、誰かが叫んだ。
「あれを見ろ!」
上空に、巨大な影があった。帝国の空中砲台である。カリギュラは首をかしげた。
「何だと!? 本部からそんな話は聞いてないが……」
無言のまま空中砲台は爆弾を投下した。その真下にいたのは、帝国軍主力であった。
「に、逃げろ!」
帝国軍が四方八方に散る中で、いくつもの榴弾が爆発する。フェルドランスは好機を掴んだ。
「今だ! 全軍脱出しろ」
土煙の中、混乱に乗じて公国軍は帝国の重囲をいとも簡単に突破した。

「全弾命中! トスキール軍は脱出に成功」
「わかったから、この燃料棒引き上げるの手伝ってくれ!」
「このアプゾルートの艦長である僕が、そんなことする筈ないじゃないか」
 ふんぞり返って地上を観察していたルフトツークは淡々と言い放った。
「ふざけるな、貴様が処刑されそうなところを誰が助けてやったと思ってるんだ」
パイクスタッフの剣幕に押されたルフトツークは、しぶしぶ一緒にロープを引っ張った。ベーオウルフと三人で力を合わせて、ゆっくりと燃料棒を引き上げてゆく。ベーオウルフが愚痴をこぼした。
「あと何人か囚人を連れてきても良かったんじゃないですかね」
「うるさい。今更言っても無駄だ」
ベーオウルフはロープを固定すると、機関室に飛んで行った。そもそも、三人で動かせるような代物ではないのである。その時、いつの間にか観察台に戻っていたルフトツークが言った。
「前方のでかい港で艦隊戦をやってるようだ」
「コスクか! よし、あのいけすかないラインハルトの奴を助けに行くぞ!」

「後方に空中砲台を確認」
「味方か」
 無敵艦隊提督のネレイデは後ろを振り返った。まったくシャフトの連中め、今更航空支援が来て何になるというのだ?
「シュネーヴァイス提督! 敵が右翼側の包囲網を突破しようとしています」
「何、まだ艦隊が残っていたのか?」
突然の爆音。巨大な水柱が上がり、帝国の二等戦艦が一隻沈没した。
「ブレヴィペス、ご、轟沈!」
「嘘をつけ! 敵の弾がここまで届くはずがない」
船員が一斉に上を見た。何と、上空の空中砲台が爆雷を投下している。
「あの空中砲台は敵か! よし、全艦回避運動をとれ!」
ネレイデは唇を噛んだ。まさか空から攻撃を受けるなどとは思っても見なかったので、対空砲は持って来ていないのだ。
「プセウドフラガ、舵をやられました! 航行不能!」
「仕方ない……ボレアリスはここで人員の救助を行う。残りの艦隊は公国軍の追撃を続けろ!」


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あきゅろす。
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