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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:戦艦
「前方、敵三等巡洋艦、六!」
「我がメガロドルカス級に、あんな小舟で挑もうというのか!?」
 水兵の報告にネレイデはむしろ驚愕していた。てっきり、今回は戦うまでもなく敵が降伏して終わると思っていたのだ。
「巡洋艦とは失礼だ。一等戦艦と呼んでやりな! あれが彼らの最大の船だ」
「信号旗です」
トスキールの小さな戦艦のメインマストの先に、色とりどりの旗が揚がった。
『我ハ旗艦“ヴァイスハイト”ナリ。貴艦ニ決闘ヲ申シ込ム』
「どうします、返答しますか」
「こう伝えろ。我はメガルドルカス・ボレアリス艦長ネレイデ・シュネーヴァイスである。決闘を受けよう!」
巨大な戦艦がゆっくりと向きを変え、ヴァイスハイト号と対峙した。
「右舷砲門発射用意! 合図とともに一斉射撃」
小型帆船の命運は尽きたかに思われた。

「敵艦、回頭しました!」
「ヤバいですよ……マジで来ます!」
「狼狽えるな! 右舷砲門発砲用意、各員衝撃に備えよ!」
航海士たちは震え上がっていたが、ヴァイスハイト艦長のアイグレット・バークには策があった。いくら巨艦と言えども、ゼロ距離射撃なら腹をぶち抜く事ができるはずだ。
(我々がここで足止めしておかなければ……)
ほかの五隻も、それぞれ帝国艦を相手に戦闘準備を整えている。
「サブ・マストに帆を張れ!微速前進!」
「微速前進ヨーソロォ!」

 一方、ネーズル王国、ボレイゲン特設外部対応庁。未だに、宰相アルバート・ナイファーと外交官ズヘニグの静かな戦いが続いていた。
「ですから、何度も言うように無理な物は無理なのです。トスキール公国を救うことはできない。我々は救世主ではないのです」
「なぜですか!? 今にも我が国の民は死んでいるのです!」
「なりません」
ナイファーが諦めかけたその時だった。無愛想なつくりの扉が勢いよく壁に叩き付けられ、衛兵たちが姿を現した。その中から一人の男が歩み出る。
「ズヘニグ。お前はローゲン帝国の人間だろう!」
「お前を拘束する」
衛兵長が証書を掲げた。ズヘニグは一気に顔色が変わり、妙な汗を流して目を見開いている。その言葉にナイファーも驚愕した。
「あんた、帝国の……! なるほど、だからあんな対応をしていたのか」
観念したズヘニグをよそに、男がさらに進み出て口を開いた。
「アルバート・ナイファー殿、元ノメール方面担当外交官のオドグ・ファスです。今は特別に臨時外交長官をしています」
やっと、本物の外交官に会う事が出来たのである。

「突撃!」
 フェルドランスの掛け声を合図にトスキール陸軍は進行方向を大きく転換し、背後の薄い方の敵に向かって驀進した。敵は未だ包囲線を形成するには至らず、いくつかの小部隊が点在していた。
「コ型陣形で前進! 敵部隊を各個撃破せよ」
「将軍!」
「何ですか! ベラドンナさん!」
「もう一度我ら騎士隊に先鋒を務めさせて下さい。お願いします!」
「良いだろう。ゆけ!」
「ハッ……騎士隊、続け! 今こそ汚名を晴らすチャンスだ」
矢の如く騎士達が敵の先陣を蹂躙し、突破口を作った。混乱した帝国兵は三方を囲まれ、それぞれ包囲殲滅されてゆく。その時、何羽もの兎がもんどりうって倒れた。ローゲンの銃兵部隊が姿を現したのである。ベラドンナは叫んだ。
「お……お前たち! 物陰に隠れるんだ、こんなところで死ぬんじゃないよ!」
弾幕と硝煙が騎士隊の行く手を遮り、再びトスキール軍の退路は断たれた。その間にも、包囲の輪は厚くなってゆく。


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