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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:騎士
 例によってフェルドランスがボードゲームで遊んでいるところへ、伝令兵が駆け込んできた。
「陸将殿! 大変です、帝国軍が攻めてきます!」
「何だよ、後一手で勝ちだったのに」
「カラズ・ランドセスに大軍が現れました。偵察兵はそれだけ言って……」
フェルドランスは立ち上がると、いつになく真剣な表情で窓の外を見つめた。
「隊長は各部隊に伝令。一時間後にメインゲートに集結、指示を待て。後、公王陛下も呼んで」
「了解しました!」
陸将と銃士隊長との試合を観戦していた将校達は一気に駆けだし、城内へ散った。演習通り、警鐘が鳴り響く。その中に、パイクスタッフの姿は無かった。

 暗い、洞窟の中。鍾乳石から滴り落ちた水の音が、反響するほどの静寂。それを破ったのは、一発の叩打音と小さな呻き声だった。
「見張りはもうこれだけか。さて、あいつはどこにいる?」
暗闇に目が慣れると、どうやら鉄格子が沢山あるらしいと言うことがわかった。
「おい、目を覚ませ」
男がつつくと、格子に寄り掛かっていた囚人は恐怖で目を見開いた。
「やめろ! 殺さないでくれ! 処刑だけは止めてくれ!」
囚人は格子から手を出して男に縋った。
「娘がいるんだ。俺のことを待ってるんだよ!」
「わかった、もうよせ。ベーオウルフ」
「あ……あれ? パイクスタッフ? ……そうか、代わりにお前に殺されるのか」
「違うな」
パイクスタッフは錠前を剣で壊しながら言った。
「なぜだ? この俺を助けようと言うのか? 敵に情けをかけられるような覚えはないぞ」
「立て」
二人は外に出た。眼下にフューラーシャフトの支部が見える。
「ベーオウルフ」
パイクスタッフはおもむろに口を開いた。
「俺は、お前が二年前の夏に騎士隊に入ってから、ずっとお前に期待してきた。お前は昼も夜も武術に励み、ついには隊長になった。お前がどんなに良い隊長であったかは、部下の話を聞けばわかる。俺は、お前を尊敬していた。そりゃ、騎士隊に捕まったときは面食らったさ。だが、やはり、お前はそんなやり方をする奴じゃなかった。そう、あのときお前は俺の女房を捕まえたりなんかしなかった。あの時は家でのんきに晩飯を作ってたとさ」
立ち止まって、パイクスタッフは相手の目を見つめた。
「お前には、騎士道精神がある。持つつもりはなくても、修行を重ねるうち自然についてしまったんだ。それならわかるだろう……ここはお前の居場所じゃない」
聞きながら、ベーオウルフは涙を流していた。

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