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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:潜入
 同時刻。帝国領ルベレに、フューラーシャフトの支部があった。そこへ、一人の男が現れた。
「貴様、何者だ!」
「判らないのか、ベーオウルフだ。定期報告に来た」
相手の顔を確認した衛兵は槍を下げ、憐れむような声を出した。
「ああ、あんたか。トスキール内部に潜入していた奴だな。残念だが、ここにあんたの居場所はない」
「どういう事だ? おい、やめろ!」
衛兵はベーオウルフに掴み掛かると、その手を縛り上げて建物の中へ連行して行った。
「マグニサイドに会わせてくれ。情報を持ってきたんだ!」
「何だ、騒々しいな」
事務室の暗がりから現れたのは誰あろうマグニサイド本人であった。
「ヴェスト川で会って以来だな、ベーオウルフ。本当に、情報を持ってきたのか?君が捕まったという情報くらいは既に入っているのだが」
「そうです。なんとか、逃げ出してきました」
マグニサイドは冷笑した。
「疑わしいな。だが、もし君の情報が本当なら、信用しよう」
「私は、この耳でしっかりと聞きました。奴らは、逆にエルトザン地方から突撃してバイデクルトを叩くつもりです」
「なるほどな、よくやった。おい、彼を監房に連れてゆけ」
「なっ……頼む、信じてくれ!」
衛兵は再びベーオウルフの腕を掴んだ。暴れる彼の足がテーブルに当たり、機密書類が散乱した。
「この情勢で奴らが攻勢に出るとは考えにくい。もし本当に軍港が襲われたら君を解放するが、そうでなければ処刑する。残念だがね」
口を押さえられたベーオウルフの呻き声が聞こえなくなると、マグニサイドは傍らの士官に振り返った。
「カリギュラに伝えろ。十万の兵力を持って、首都コスクを強襲せよと。ロック諸島で演習中のアルマダも出撃させよ」
「しかし、皇帝陛下は停戦命令を出していますが」
「そんな事は関係ない。我々はフューラーシャフトだ。今を置いては、トスキール人どもをみすみす逃してしまう」
「ハッ」
「トスキールの馬鹿どもめ、私がそのような手に乗ると思ったか。そもそも、私は貴様らの軍に興味はない。いかに多く殺すかで、勝敗は決まるのだ」
マグニサイドは再び笑った。

 トスキールの外交船が到着したという噂を聞きつけて、ボレイゲンの町は大勢の見物人で溢れかえっていた。
「あれが噂の、アルバート・ナイファーか」
ネーズル王室直属外部対応部第七事務補佐官ズヘニグがにやりと笑って言った。トスキールの大勝利の事は知っていたが、国民の反応は過剰にも思われる。用心深い衛兵が剣を構えた。
「こちらへ来ます。どう致しましょう」
「くれぐれも、無礼のないように。彼の望みも、可能な限りかなえてやりなさい」
数人の従者を引き連れて、トスキール公国宰相が姿を現した。意外と温厚そうな男だ。
「あなたは、外部対応部の方ですか」
「これはこれは宰相殿、お迎えにあがりました」
一行はトカゲのような動物が引く車に乗り込むと、新たに設置された領事館へ向かった。

 ナイファーがコスクを発って三日後。数隻の戦艦がコスクに入港した。トスキール第二の都市、ロイドに駐屯していた艦隊である。
「アイグレット! よく帰ったな」
「ラインハルト様!」
海将に駆け寄って行った青年はラインハルトの弟子を名乗るアイグレット・バークである。どうやら、ラインハルトとしては満更でもないらしい。
「私もついに一つの部隊を任されるようになりました。これも師匠のおかげです」
「それはよくやった、アイグレット!」
これでトスキール海軍の全ての艦はコスクに集結した。これから、一気に避難民を国外に輸送する大規模な作戦が始まるのだ。

 その頃、カリギュラ宛にフューラーシャフトから一通の書簡が届いていた。今すぐ、コスクを強襲せよと言うのである。
「どうやら、アルマダも出てくるようだ」
書簡の内容にカリギュラは内心驚いてもいた。皇帝があからさまに厭戦を表明しているのに、どうしてこれだけの兵力が出てくるのだろう?
「本当ですか。なら、負けようがありませんね……我が陸軍も既に十万人を動員しました」
レヴァリーはついに汚名が返上できるとあって奮い立っている。カリギュラは肥満した体を立ち上がらせ、戦旗を掴んだ。
「わかった。全軍をカラズ・ランドセスへ向け、コスクを殲滅させよ!」
神暦千九年十月三十一日、ローゲン帝国軍はトルスの基地を発った。


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