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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:祭典
 巨大な飛行船は音もなく風に乗って接近した。爆弾をぶら下げた姿はまるでコバンザメを従えたクジラのようだった。
「間もなく町の直上です」
「各艦高度100まで降下! 爆弾投下後、上空で待機せよ」
 眼下の町はとても明るかった。まさしく格好の標的である。ルフトツークは満面の笑みを浮かべ、言った。
「投下! 味方艦の上に落とすなよ!」
「投下、ヨーソロ!」

 町の手前の森が炎に包まれた。焼夷弾があたりに炎をまき散らし、全てを焼き尽くしてゆく。町外れのベンチに二人の老婆が座っていた。
「今年はずいぶん派手な演出ですねえ」
「そうね、アンネばあさん」
丁度その時、花火大会が始まった。

 ローゲン空中艦隊は、眼前に広がる光輪に戦慄した。布製の船体に火の粉が降り注ぐ。
「バカな! こんな辺境に対空砲があるというのか!」
「違います……あれは、花火です!」
「くそっ、全弾投下、急速上昇!」
遅すぎた。先駆けの砲台に火の粉が引火し、大爆発を起こす。
「アプヴェール、爆沈……!」
部隊は完全に混乱した。爆炎が近くの砲台を襲い、爆発が連鎖する。ルフトツークは焦った。このままでは全滅してしまう!
「なぜ反撃せんのだ!」
「硝煙で信号旗が見えません」
花火はまだまだ咲き続ける。地上の住民たちが、異常に気づき始めた。

「なんだ、ありゃあ?」
「まさか、帝国軍の攻撃じゃないか?」
 爆弾が神殿に命中すると、事態は急変した。観客は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、大混乱となった。
「これ以上は無理です、ここもやられます!」
花火師たちも身の危険を感じていたが、そこは職人としての意地があった。
「まだだ……なんとしてもフィナーレまでやり遂げるんだ」
巨大な花火がいくつも炸裂する。二つ目の空中砲台が畑に墜落した。
「アプヴルフ、轟沈」
「アプファンゲン被弾! 助けを求めています」
 ルフトツークは息ができなかった。自分が大切に育ててきた部隊が次々と壊滅してゆく。気付けば、艦隊はアプフォイエルン、アプシュネレン、旗艦のアプゾルートの三隻を残すのみとなっていた。
「隊長、撤退命令を!」
「……僕は、僕は……」
爆弾を投下し終えた船体は指示を待たずとも軽くなり、上空の雲の中へと消えて行った。

 暫くして、町の人々が隠れていた場所から顔を上げた。
「いなくなった……」
「勝った、のか?」
「やったぞ!」
しかし、町は荒れ果てていた。神殿は粉々に吹き飛び、畑は穴だらけになっている。瓦礫の下から宰相が這い出してきた。
「言わんこっちゃない……全く、公王陛下と来たら」
最後の花火があがり、美しい金色の火花が降り注ぐ。花火大会は終わった。

 翌日。公王の一行は、続々とローバスルを後にする避難民たちの先頭にいた。公王の意向で兎を降り、歩いてコスクまで行くというのだ。しかし、それは運動不足の老宰相には十分こたえた。
「へ、へ、陛下、なぜこのような事を、は、はあ」
「もちろん、俺たちだけ楽するわけにはいかないだろう」
「ところで、陛下、なぜあの空中砲台が爆発すると?」
「実はな、昔は勉強の時間に抜け出してよく貿易商人たちの話を聞きに行ってたんだ。そのとき、帝国初の気球が大爆発したっていう噂を聞いたのを思い出しただけさ」
ヴェスヴィオスはそう言うと、長剣をガチャガチャいわせながら駆け出した。
「お待ちください、陛下あ!」
二人の影は曲がり角の向こうへ消えて行った。


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あきゅろす。
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