War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完 :強襲 コスク城の前には、何台も馬車が用意されていた。東と南を山脈に囲まれ、一番危機感の薄いカルパート盆地のローバスルに警告訪問をするのだ。宰相と公王のお出ましとあらば、さすがに彼らの認識も変わるだろう。 「では、ラインハルト、後は頼んだぞ」 「もしコスクに敵艦隊が来た時は、俺様のラインハルト艦隊がぶっ潰してご覧に入れます」 「フェルドランス、お前も気をつけろ。勝手に暗殺されるんじゃないぞ!」 フェルドランスは全く聞いていない。傍らにいる見慣れない美人に見とれていたのである。 「あ……あの、貴女は?」 「新しく騎士隊隊長に任命されました、ベラドンナです」 「へえ、あの、それじゃ、後でお食事でも……」 「?……構いませんが、兄も呼んでよろしいでしょうか?」 その晩、フェルドランスはパイクスタッフと夕食をとるはめになった。 三日後、公王一行はローバスルに到着していた。住民たちにはとても歓迎されたが、彼らが来た真の理由を理解している者はいないらしかった。信じられないことに、その日は花火大会だと言うのである。 「四年に一度の大事な祭りなのです……それが終わってからでも疎開は遅くないでしょう?」 町長の懇願に、ナイファーも遂に折れた。 「何でまたこんな時期に? まあ、一日くらいなら良いが」 町は祭りの準備で大忙しだった。何千発もの花火が用意される。誰も、ローゲン帝国が迫っている事には気付いていなかった。 「まもなく、トスキール上空です」 船首の監視兵が下を見て叫んだ。山脈を越えたのだ。 「よし、燃料棒あげろ! 降下する」 ルフトツークの命令でマグネシウムの燃料棒が引き上げられると、ガスの放出が止まり船体が下がり始めた。ベテランの船員たちが次々と作業をこなして行く。 「現在高度700,650,600」 「爆弾投下準備よし!」 「山脈を完全に越えました! 隊長、いつでもいけます」 「奴らの町が見えたぞ!」 「HCL残量70%です。このあたりで引き返さないと……」 「わかった……諸君! 我らの目標はあの町の殲滅だ! 我がローゲン空軍の力を奴らに見せつけてやろうじゃないか!」 その頃ローバスルにも夜の帳が降りてきて、住民たちはお祭り騒ぎだった。なかなか規模の大きい花火大会だというから、ヴェスヴィオスはいても立ってもいられなかった。 「そろそろ始まります」 彼らが特別席へ移動しようとした、その時だった。 「宰相殿! 伝令兵です」 「何だね? 通せ」 「宰相殿! 公王陛下! 見た事もない巨大なものが上空からこちらに接近してきます!」 「何!?」 「く……空中砲台か! 皆のもの、花火大会は中止だ!」 「いや、待て!」 慌てる宰相を、公王は引き止めた。 「陛下! いったい何を?」 「花火大会は続行しろ! 何があっても、中止してはならぬ」 ヴェスヴィオスは不敵な笑みを浮かべていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |