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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:動揺
「バカな! カリギュラ様は、確かに完全な奇襲だとおっしゃっていたのに」
 トスキール征伐特命部隊隊長、レヴァリーは狼狽していた。勇猛果敢で知られる男で、かつてイースラークを襲った際には一小隊で敵師団を全滅させた記録を持つ程だ。
「隊長、落ち着いてください! 敵は取るに足らぬ数です」
強い忠誠心を持つ隊員の言葉に、勇将レヴァリーは我を取り戻した。
「よし、わかった。突撃だ!!」
総数約八万の装甲歩兵混成軍が、総数約三百の海兵隊に向けて谷へなだれ込む。その光景はまさに圧巻であった。
「隊長殿! おかしいです。ここには本来ヴェスト川が流れているはず……!」
「心配性め、今は乾期だ。干上がっていたとしても不思議ではあるまい」

「さてさて、やっこさんたちまんまと引っかかってるぞ」
 海の男の眼の良さでラインハルトが迫りくる帝国軍を眺めるが、その口には微笑が浮かんでいた。パイクスタッフが後ろを振り向き叫ぶ。
「おい、ラインハルト! この後ここは濁流に飲まれるんだぞ、聞いているのか!?」
「ああ、そうだ。お前も死にたくなかったらこの上に乗りな」
前線では既に斬り合いが始まっている。すると、低い地響きのような音が聞こえてきた。
「なんだ、なんだ?」
背後の渓谷に共鳴する重低音に気付き、帝国軍の兵士の間に動揺が走る。レヴァリーは兵たちの戦意を再び奮起させるために陣地を駆け回った。
「どうした、お前たち! 攻撃を続けろ!」
「隊長! やはり変です。あの敵は海兵隊です!」
「なんだと!? まさか……」
「後ろを見ろぉ!」
轟音とともに濁流が迫っていた。
「おのれ、海兵隊の奴等は囮か! 皆の者! 谷を登れぇ!」
一斉に兵たちが崖にとりつく。ところが、斜面の茂から何千人もの公国軍銃士隊が姿を現したのだ。
「しまった、謀られた!」
「撃てェ! ローゲン軍を登らせるな!」
大混乱である。そもそも八万もの軍勢をいきなり動かそうなどというのが無理な話で、何が起きているのかすらわからずにうろうろしている者も大勢いたのだ。


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あきゅろす。
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