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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:衝突
 神暦一〇〇九年九月二十一日、ローゲン帝国軍はついに動き出した。コスクに潜入した諜報員の情報によれば、トスキールの全軍はカラズ・ランドセスに集結するらしい。さらに、ランドセスの偵察兵は大量の軍旗を目撃している。カリギュラは勝利を確信したのだ。
「ふふふふ……あの馬鹿どもが、慌てふためく姿が目に浮かぶようだ。奴らの裏をかき、全軍をアイフェル渓谷へ出撃させるのだ!」
総数約八万人の大部隊である。トルス地方南部の前線基地を出発した帝国軍は、一路トスキールを目指した。

 その頃、フェルドランス率いるトスキール軍は国境のネイツ山脈西端に位置するアイフェル渓谷へ到着していた。
「エルトカレス地方の農民が、ローゲン軍の尖兵を目撃したらしいです」
「さてさて将軍殿、一体どうするおつもりですかな?」
パイクスタッフが吐き捨てるように言った。フェルドランスはジェネラルポーンの駒を現在の軍の陣形に並べ替えるので大忙しである。さらに機嫌の悪い陸軍副将軍は永遠のライバルであり先に将軍の座を手にしたラインハルトが遠くで部下になにやら指示を出しているのを睨みつけた。
「だいたい、なんであそこに海軍の馬鹿将軍がいるんだ」
「川だ」
「は……?」
パイクスタッフは若き陸相の言葉が理解できなかった。
「川を使う」
「と言いますと、どういうことでしょう」
すると陸軍参謀のベーオウルフが訳知り顔で言った。
「パイクスタッフ殿、谷の下を見てください」
「ん?ありゃあ、ヴェスト川がないぞ!」
「支流を全部水源からせき止めたんですよ。いつでも、狼煙を上げたら流れを解放する事ができるそうです。私もこんな作戦、今日初めて知ったんですけどね」
「そ……そんな事をいつの間に……」
パイクスタッフは谷底を覗き込み、恐るべき事に気付いた。
「お、おい! どういう事だ、じゃなくて、ですか、将軍殿!? 下に、歩兵隊が一個師団は居るじゃないか!」
「ああ、そうだ。彼らには囮になってもらう」
フェルドランスは駒を眺めながら言った。
「ふざけるな! 兵士は駒じゃないんだ!」
ジェネラルポーンの盤をひっくり返すと、パイクスタッフは谷を走り降りて行った。
「熱い人ですね……」
ベーオウルフが落ちた駒を集めつつも、唖然として言った。
「そういうのが部下に一人くらいいても面白いよ。そう思わない?」
その頃恐るべきスピードで谷底へ到着したパイクスタッフは、怒りのあまり声を失っていた。
「お……お前ら、海軍じゃないか!」
「そう、ここは俺様の海兵隊の管轄なんだよ、『副』将軍殿」
いつの間にか、憎きラインハルトが後ろに立っていた。
「貴様、我々陸軍を馬鹿にしているのか? これは陸戦だ! 海兵隊の出る幕じゃない。」
「それはどうかな……ショウタイムだ!」
爆音がして、赤い炎を引いた狼煙が上がった。攻撃開始の合図である。
「前方にローゲン帝国軍! 総数、約八万です」
監視兵の報告にフェルドランスは意外そうな顔をした。
「この僕をなめているのか? たったそれだけで」
「それだけって、こちらの十倍ですけど……」
フェルドランスは弱気なベーオウルフの発言を無視して立ち上がると、もう一本の狼煙を打ち上げるように指示した。緑色の煙筋を残しながら、空高く狼煙があがる。
「おい、パイクスタッフ! そこにいると危ないぞ」
海将が引きとめようとするが、怒れる戦士は足を止めようとしない。
「ケッ……貴様に忠告されるほど落ちぶれちゃいないわ!」
パイクスタッフは鞘から剣を抜くと、遥か前方に広がる帝国軍に対峙した。
「来い! いつでもかかってこい!」
「まったく、これだからいつまでも昇進しないんだよ」
「なんだと!」

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あきゅろす。
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