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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:指令
 翌日。コスク本閣で、第二回の最高閣議が始まった。
「帝国の動きは?」
ヴェスヴィオスはフェルドランスに無気力な声を投げかけた。
「全然ありません」
「なるほど……やはり、思った通りだ」
その場にいる全員がその言葉は嘘に違いないと思った。フェルドランスは報告書の続きを読み上げる。
「ですが、時間がないのは確かです。帝国消息筋の説明によると、奴らの軍は最低一ヶ月で十万人を動員できます」
「そうか……フェルドランス、帝国軍が来るとしたらどこだ?」
「おそらく、カラズ・ランドセスかアイフェル渓谷を通ってくるに違いないでしょうね。大軍で山脈を超えてくる事は考えにくい……」
「アイフェルだ」
公王は謎の自信の下に断言した。
「なぜ?」
「ランドセスの東部は奴らが自ら砂漠にしてしまった。それに、トルスの南部には大規模な帝国の幕営地がある。……どうした、アルバート」
「お言葉ですが、帝国軍は砂漠を超える能力を十分持っています。それに」
「なるほど! そうだな。よし、全軍をカラズ・ランドセスの地へ向けるのだ。閣議はこれにて終了!」
宰相の言葉を遮るようにして、公王は閣議を突然終わらせてしまった。その後三人の大臣は、閣議室の出口で公王から小さな紙切れを受け取った。
『ウサギ小屋ニテ待ツ』

 疑い半分で、彼らは兎小屋へ向かった。ちなみに、彼らの言う兎とは長い耳の騎乗用の動物であり、機動力は十分だが乗り心地が極めて悪いのが欠点である。
「どうしてまた、こんな所へ……」
儀礼用の式服が擦り寄るウサギで汚れるのでナイファーは小屋に入るのを頑なに拒否した。
「よく来た!」
兎の間から、公王が出てきた。
「さっきの命令は取り消しだ。全軍をアイフェル渓谷へ向けよ」
「なんと!?」
全員が驚愕した。
「さっきは扉の陰に帝国のスパイがいたのを見つけたからな……これで間違いなく、奴らはアイフェルに来る。ナイスだ、アルバート!」
「私はそんなつもりでは……」
「なるほど、敵に偽装情報をつかませたってわけだ。で、フェル公、一体どうするんだ?お前のご自慢の頭脳でどうにかしろ」
ラインハルトが陸将に詰め寄る。
「わかったよ……ところで、この国って兵士はどれくらいいるの?」
「お前……」
フェルドランスのあまりに基本的な質問に彼らは不安さえ抱いた。
「だって、先週まではただの兵士だったんだから」
まあ、それはそうだ。
「全軍は三万で、陸軍二万、海軍一万だ。これは予備兵役も含めた数であるから、実質二分の一」
宰相の言葉を、若き陸将は小さな手帳に書き込んでいく。
「了解しました、陛下。それなら、相手が二十万でも行けます」
全く安心できない発言だが、彼に任せるほかはないのだ。
「よし。それで決定!」
臨時閣議は終了した。その夜は、記録的な熱帯夜であった。

 さて、一ヶ月の間、両軍に主な動きは見られなかった。まるで、嵐の前の静けさである。コスク城に隣接する、陸軍本部。ジェネラルポーンという複雑なボードゲームでフェルドランスが遊んでいると、将軍室へ大柄な男が入ってきた。
「フェルドランス……『様』! 準備が完了しました」
この男、次期陸将最有力候補であった、剣士隊隊長のパイクスタッフである。見るからに厳つい甲冑を常に身に着け、その肉体美は見事の一言だ。彼にたてつく者は八つ裂きにされてしまうと恐れられていたが、フェルドランスにだけは全く脅しが利かなかった。
「あ、そう。サンキュ……ところでさ、君なら今どんな手を打つ?」
「一体、何をしていらっしゃるんですか? 帝国軍は今にも攻めてくるのですぞ」
「そうですよ……やっぱりだめですよこんな事してちゃ」
嫌々相手をさせられている騎士隊隊長であり参謀のベーオウルフが言う。
「わかったよ。よ〜し、行くぞ!」
勝負の状態を紙に記録すると、仕方なく、陸将は出撃命令を出した。

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