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War Chronicle of Toskiel(紺碧の空)完
:布告
 使者はとうにコスクを去り、ただ四人だけが会議室に残されていた。
「やっちまったな」
今にも笑い出しそうな海将が言う。
「行ってしまった……」
ナイファーは完全に放心状態だった。フェルドランスが公王の顔を覗き見る。
「どうするんです?」
「アルバート、これからコスク中の人を集めてくれ」
ヴェスヴィオスは使者の残した帽子を拾うと、そのままゴミ箱に捨てた。
「しょ、承知致しました」
「それからフェルドランス、そこでオレが言う事を全国に公布しろ」
「了解!」
「ふふふ、さて何をおっ始める気だ……?」

 それから数時間後。再びコスク城内は人々で埋め尽くされ、大臣、書記その他が席を連ねた。どうやら、国民の間に開戦の噂はまだ広がっていないらしい。
「えー、国民の皆さん」
ヴェスヴィオスが口を開いた。
「まずい事に、戦をするはめになってしまいました!」
宰相はお前が原因だろう、という指摘をしたくなるのを必死で抑えた。
「オレたち軍は、可能な限りこの地を死守する。でも、国民の保護が最優先だ。だから、戦いたくない人、ここにいたくない人は逃げてくれ。今のうちだから……」
静寂。国民は全員ストレートパンチを食らったかのようだった。なによりも、公王のこのような姿を見た事がなかったのだ。
「帝国の連中はこんなに早く戦になるとは思ってないはずだから、この後何日かは何も来ない。海軍の船を総動員するから、北へ亡命してくれ。とにかく、無駄死にはするな」
(こいつ、こんな事を考えていたのか……)
ナイファーも、心底驚愕していた。確かに、敗戦して帝国の監視の目が入るようになる前なら、多くの人民が逃げ仰せるに違いない。
(しかし、トスキールの民がそうホイホイと逃げ出すだろうか?)
元々トスキールの民は自尊心が高く、戦わずして逃げる事などもってのほかなのだ。
「俺はヴェスヴィオス様に従うぞ!」
誰かが叫んだ。
「あんな奴らに降参してたまるかよ!」
「そうだ! 逃げ出したりなんかしないぞ」
国民は沸き返っていた。先ほどまでのショックは消え、誰もが闘志を目に滾らせている。
(まさか……これが狙いだったのか……?)
ナイファーはヴェスヴィオスを見た。しかし、公王は全くそのような素振りを見せない。
(まさか……な)

 一方、帝国軍の司令官カリギュラは思い悩んでいた。実は、皇帝から『決して戦争にならぬように』と念を押されていたのである。帝国とて、度重なる戦争で国力が疲弊していたのだ。
「どうすれば……どうすればいい?」
彼は、愚かだった。なんと、開戦の事実を隠蔽しようとしたのである。この動きのせいで、帝国は大きく遅れをとる事になった。もしこの時ローゲン軍がすばやい対応で弱小な公国軍を攻撃していれば、トスキールはひとたまりもなく撃破されていただろう。


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あきゅろす。
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