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マグの足跡(千葉)完
STAGE3-2 クラーユ:ヤマテノじょう
「………ってぇな…あ」
意識が戻ったことを確認する。
あの後すぐに意識が戻ったのか、それともあれから結構時間が経ったのかは分からない。
感覚的にはそこまで長くないような気もするのだが。
しかし、もっと重大な問題がある。目の前に鉄格子があることだ。
外からしっかりと鍵が掛けられた鉄格子の扉以外に、
出口のようなものは見つからないし、…牢屋なのだろう、ここは。
つまり自分は囚われの身になったということか。
「ちょ、ちょっと待てよ…」
鉄格子の扉をガタガタと揺すったが、開く気配は無い。
小さく首を左右に振ってから、鉄格子から右、左、前とくまなく辺りを見渡す。
随分と狭い部屋だ。蛍光灯が備え付けられているが、それほど明るくなく、薄暗い。
部屋には、見張り役代わりなのか何なのか、銀ピカのサウルスが二匹うろついている。
今まで見てきたのよりでかい。その向こう側に扉があるのが見えた。
(落ち着け、何とかなる、何とか…)
平常心、平常心。まだ駄目だと決まったわけじゃない。
しかしどうする?
牢屋の壁を見ても鉄製の壁がそこを覆っているだけだ。
床も同じで、ひびや傷のようなものも見当たらない。
腰にかけた布袋の中には地図にホシニク、空の財布があるだけ。
「………はぁ」
自然とため息が出る。時間が経てば誰かが助けに来て……くれる訳も無い。
鉄格子の外に目をやる。
サウルスがとぐろを巻いていた。いいよなあいつらは呑気で…。
「…あーあ!! もうやってらんねぇ!」
マグは袋の中からホシニクを取り出した。
すぐさま口に入れる。ヤケ食いだ。行儀悪く、クチャクチャと音を立てて噛み、一気に飲み込んだ。
もう一枚、ホシニクを袋から取り出す。最後の一枚だ。
「これも食っちまおう…ん?」
グルルルルル…。何やら唸り声のようなものが聞こえた。
視線を感じ、横を見ると、サウルスがこちらの方を見ている。
「何だ? このニクが欲しいのか?」
ホレホレ、とホシニクを見せびらかす。
「欲しいなら俺をここから出せってんだ」
投げやりにそう言った次の瞬間、銀ピカのサウルス達は体を丸め、
こちらに向かって転がり始めた。加速し、巨大な二つの岩の塊が、眼前に迫ってくる。
「は…」
ガッシャーン!! 凄い音がした。
後ろに吹っ飛ばされたことに時間差で気付いた。壁に打ち付けられ体を起こす。
「ったく何なんだこれ……あっ!!」
目の前の鉄格子が跡形も無く破壊されていた。
「よ……よし!」
すぐさまマグは部屋の扉に向かって走り出した。
後ろから何かが迫ってくる音がしたが、振り返らず突っ走った。扉を開け、目の前にあった真っ直ぐな廊下をまた突っ走る。
螺旋階段が右の方に見えたので、それを駆け上った。
途中で息が切れてきたので、一旦足を止め、呼吸を整える。
(は、ははっ…何とかなるもんだな…世の中…)
しかし、もしホシニクを持っていなかったら、もしあの銀ピカのサウルスがいなかったら…
ずっとあそこに閉じ込められたままだったのであろうか。考えるとぞっとする。
とりあえず、チーノのおっさんには感謝しておこう。銀ピカのサウルス達にも…
もうあんな岩の塊に追っかけられるのは、嫌だけど。
一息ついたところで、今度はゆっくり、一段一段螺旋階段を上っていく。
それにつれ、周りも段々と明るくなっていく。
一番上に着くと、そこには大きな鉄製の扉があった。
隙間から光が漏れているのが分かった。
(この向こうに、何かあるのか)
ちょっとだけドキドキしつつ、その扉を向こう側に押す。中々重い。
体重を掛けるようにして、ゆっくりとその扉を開く。徐々に光が眩しさを増す。
「……………!」
目の前には、さっきいた部屋とは似ても似つかない部屋が広がっていた。
床にはレッドカーペットが敷かれ、部屋の中央を囲む形で火を灯した金の蜀台が置かれている。
天井には巨大なシャンデリアが吊るされていた。
城―――一言で言えばそんな感じだ。だだっ広い。
『おい侵入者だ!!』
『馬鹿な! クソっさっさと処分するぞ!』
男の叫ぶ声がした。
槍を持った兵士が三人ほどいるのに気付く。こちらに向かって来る。
「仕方ねぇな!」
マグも槍を構えた兵士に向かって走る。
三本の槍が一斉にこちらへと襲い掛かってくる。間一髪かわした。
『ええい小癪な!』
体勢を立て直そうとした瞬間、一本の槍がこちらに向かって突っ込んでくるのが見えた。首を右に反らす。
「あぶねっ!!」
刃が頬を掠った。すぐさまマグはその槍の柄を両手で掴み、
そのまま柄の石突でその兵士の頭を思いっきり突く。
その兵士が仰け反り倒れた後、すぐに槍を持ち直し、円を描くようにありったけの力でその槍を振る。
残りの兵士が突き立てた槍を弾いた。
『おのれ!』
今度は二本同時に槍がこちらに向かってくる。
すぐさましゃがんで滑り込むようにして懐に潜り込んだ。
『!?』
そのまま奪った槍で兵士の足を払い、体勢を崩した二人のうち、
仰向けに倒れた右の兵士の喉に槍の穂先を突き立てた。
「動くな!」
マグに襲い掛かろうとした、残り二人の兵士の動きが止まった。
『な、何を……』
仰向けに倒れている兵士の喉に、刃をあてがう。
「……動いたら、こいつの喉を突き刺す」
『ちっ…汚いマネを!』
「汚いもへったクソもあるか! 質問がある、それに全部答えたらこいつを解放してやるよ」
『質問?』
「ああ。まず一つ訊くが、ここはヤマテノって奴の根城…で合ってるんだよな」
『!? そうか、計画を邪魔しようとしている者というのはやはり貴様か!』
「そうじゃなきゃ、こんなとこ来ねぇよ。まぁ、とりあえずイエスってことでいいんだな。
じゃ次だ、ヤマテノの場所と王女の場所、両方教えて」
『……くっ……あそこに扉があるだろ? その奥の階段を上ったところにヤマテノ様がいるはずだ…』
「王女もそこにいるのか?」
『扉の右のカーテンの奥に通路がある、その先に…』
「ホントだな?」
『あ、ああ…』
「ありがとよ!」
『待て!!』
マグが突き立てていた槍の刃先を離した瞬間、まだ槍を持っていた兵士が襲い掛かってきた。
咄嗟に右に交わしその兵士の脇腹目掛けて突く。鎧の隙間から鮮血が飛び散るのが見えた。
「血!? お前ら、人間なのかっ」
『当たり前だ! だから何だ!』
「やりづれぇなってことだよ!」
『ぐぁっ!』
相手の喉仏目掛けて槍の柄を叩き込んだ。
『貴様!』
「ちょっくら目ぇ閉じててもらうぞ!」
同時に襲い来る攻撃を交わし、そのまま二人、三人と槍の柄と拳でねじ伏せる。
その際相手の槍が左腕を掠ったが、それ以外は何とか傷を負わずに済んだ。
(これで気絶…したか?)
兵士達に目をやる。動く気配は無い。…いけるか。
(さてと…あのカーテンの向こうか)
情報収集のためには、まずは王女に会うことが先決だ。
まぁ単にすぐ会いたいのも事実だが。兵士が先程教えてくれたカーテンの元に行き、裏を覗く。
「何だ?」
通路が無い。単に壁があるだけ…。
いや待て。何やら壁に微かな隙間がある。試しに手で押してみた。
「おっ?」
ギィ、と音を立てて壁…いや扉が開いた。この壁、取っ手は無いが立派な扉だったのか。
わざわざカモフラージュされているということは…兵士の言っていたことは恐らく本当だろう。
(よし、この先を行けば…)
さっきいた部屋とは打って変わって、薄暗い場所だ。
壁には何も塗装が施されていない。床もでこぼこだ。
(本当にこの奥に…)
自然と鼓動が高鳴る。会ったらまず何て言えば…
『誰だそこの怪しいヤツ!』
「へ?」
ぼーっと歩いていたから気付かなかったが、どうやら敵に見つかったらしい。
前方から剣を持った兵士が走ってくるのが見える。今度は剣使いか。
「よーし望むところだ!」
槍を構え、正面から突っ込んでいく。
『死ね!』
「おっと!」
相手が振り下ろされた剣を槍の柄で止め、蹴り倒した。
『しまったっ』
「隙あり!」
そのまま柄による打撃攻撃を立て続けに喰らわせる。
程なくして相手は壁に倒れ掛かったまま動かなくなった。多分死んではいないだろう。
「よし、これで大丈夫だ…」
パン、パン、と手をやる。
「あの…」
「何だよ、これからいいとこなの…ってあっ!」
後ろを振り返ると、鉄格子…牢屋があった。
その中に、水色のドレスに身を包んだ女の人がいる。そして頭の上には、一本のツノが―――

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