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マグの足跡(千葉)完
プロローグ
「はぁ、こうも暑いとやってらんねぇ」
そう口にしたのは一人の青年だった。
足下に転がっていた石を蹴る。石が音を立てて転がる。
「またどっか行こうかな」
その青年、名はマグ、という。
気まぐれ、テキトー、単純。
彼を表す単語を三つ挙げるとすれば、それらが一番よく当てはまる。
「……この国にももう飽きたわ」
格好は、灰色の角張った帽子に、布切れのような茶色の服、ボロい靴とかなりラフ。
腰に布袋を引っ提げている。傍から見れば、どこかの盗賊にしか見えない。
マグは辺りを見回した。
前は賑わっていたはずのこの商店街も、シャッター街と化している。
この街は…いや、この国は随分とつまらないモノなってしまった。
ヨド国――――マグが生まれ育った国である。そして彼が十五歳の時に捨てた国でもあった。
旅に出てから十年は経っただろうか。彼は再びヨド国の自らの故郷、リシバに戻って来た。
そして早速飽きた。かつての面影も消え、人通りの殆どない寂れきった様子を眺め続けていれば、飽きもする。
「おーいそこの兄ちゃん、ちょっと見てかんか」
一本道を進んでいく途中、ふいに声をかけられた。
びっくりして声の聞こえた方に目をやると、珍しくシャッターの閉まっていない店が目に入った。
結構歳のいった主人が立っている。どうやら地図屋らしい。
「…俺、今金欠なんですよ」
「まぁまぁそう言わずに…ナンカコウテクレヤ」
「地図ねぇ…」
店の棚の引き出しには、地名、国名が書かれたラベルが数え切れないほど貼られていた。
(旅に出るには丁度良いかも…あ)
ミガサ王国。その名が目に付いた。隣国ではあるが、一度も行ったことがない。
何故だろう。何となく、だろうな。引き出しから地図を一枚取り出す。
「じゃあ、これ下さい」
銅コインを一枚、店の主人に差し出した。
「ミガサか? まいど! …格好を見るに、旅か何かか? 気をつけてな。
あ、ミガサといえば、明後日に王族のパレードがあるらしいぞ」
「……へぇ。まぁ俺は興味無いです、そんじゃ」
そう言って店を出た。再びシャッター街をゆく。
足を進めつつ、地図を眺める。
王族のパレードか…じゃあ、王女もいるんだろうな。きっと綺麗な人なんだろうな。あそこの国は都会だし。
興味は無いと言いつつも、マグはそんなことを考えていた。
「あっ、あのオヤジ…詳しい場所言ってくれなかったな…。
まぁミガサに着いてから調べればいい話か」
既にマグの頭の中は、パレードのこと、というよりは王女のことといった方が良いかもしれないが、
とにかくそのことでいっぱいだった。


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