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天と地と、その狭間で(禮晶) 完

夜半…
翡が星を眺めていると、蛍火の様な…蛍火だったら非常に良かったのだが…光が一つ、現れた。
人の形を取ると、すっと翡の傍らに立つ。
「ちっ、もう来たのか。早いな」
「これでも遅い位ですよ。こんなど田舎に来るのは本来なら下っ端の仕事なんですが」
「ははは。で?風の長殿が何の用で?」
銀色の髪と、殆ど白に近い灰色の瞳。
風の属性を持つ神仙達を統括する、風の長と呼ばれる彼は、長らく翡のお守り係をして(或いはさせられて)いる。
「妙な敬語は止して下さい。貴方の方が全然偉いでしょうが」
「給料も断然高給だしな」
茶化されるのはもう毎度の事で、溜め息しか出ない。
「良い加減にしないと怒りますよ?…天帝陛下。」

天帝陛下。
数多の神仙を統べる、最高権力者である。


「貴方がいなくなったら一体誰が位に就けるのですか」
「お前でも誰でも、好きな奴が就けば良い。俺は知らん」
「陛下……」
あの日からだ。彼がこうなったのは。
忘れたくないから。風化させたくないから。忘れ…られないから。
何千年と経った今も、彼は『あの時』に…殆ど依怙地なまでに、留まり続ける。
だから、彼には見かけの成長も無い。
神仙の齢を人間で換算すれば、二十歳かそこらの外見をしている筈が、『あの時』のまま…十二、三歳のまま、変わらない。
「…昔は可愛くて素直なお子様でしたのに…」
「お子様言うな」
まぁとにかく、と翡は呟いた。
「俺はしばらく帰らんから適当に代役立てとけ」
「無理です。強制連行しますよ?」
翡翠色の目を眇め、口角を釣り上げる。
声こそ無いが、やれるものならやってみろ、と顔にでかでかと書かれている。
「…生憎と、仕事中なんでね、例の案件の」
「………!あれ、とは…まさか」







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あきゅろす。
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