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天と地と、その狭間で(禮晶) 完

遥か西方の地でなら金髪碧眼が一般的な容姿なのだが、この辺りに住んでいる人間なら黒髪黒目が一般的だ。
だが、蒼の瞳の色は黒ではなかったのである。
まるで晴れ渡った真昼の空の様な、蒼い瞳。
「だから名前が蒼なのか?」
そう彼が言うと、蒼は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「えぇ。だから貴方達が見えるのかもしれません」
それは関係無いだろうと彼は思った。
自分達が『視える』という感覚は感度の違いこそあるが、誰もが必ず持っているものなのだ。
それを上手く引き出し、操れるかは当人達次第である。
まぁ確かに蒼の場合、それが著しく鋭い様だが……
彼がそう言ってやると、蒼はぽつりと呟いた。
「……良かった」
「何がだ?」
蒼の表情は先程までと全く変わらない。
人の良い、穏やかな微笑を浮かべたままである。
だが、今はそれが何処か寂しげに見えたのだ。
「ただ目の色が黒でない事が理由だったら…こんな目、要らないと思っていました、ずっと」
彼の左目の下、目頭から目尻にかけて長い切り傷の痕が残っている事に彼は気付いた。
細く長い傷痕を指でなぞりながら蒼は言う。
「子供の頃、目を抉り出そうとした名残なんです、これ」
そこまで言ってから蒼は慌てて付け足した。
「あ、でも未遂ですし。すみません、昼飯前に」
「別に」
同情する訳ではないが、目を抉り出したいと思う程には色々言われ続けて来たのだろう、きっと。
「もし良ければ、一緒に昼食でも?」
「……俺は女じゃないぞ」
「私も色好みじゃありませんよ」
彼の返答に蒼は苦笑した。
人ならざるモノだという事は分かりきっている。
何より、その身に纏っているのが有り得ない程に強大で純粋な神気…文字通り、神仙に特有の気配なのだ。
恐らく相当位の高い、名のある神仙なのだろう。
畏怖を感じない訳ではないが、そこらの人間などよりもよほど親しみを感じる事が出来た。
「神仙でも腹は減るのでは?」
「時の感覚が違うからな…でも、確かに腹減ったかも」
三杯目でも堂々と出すからな、と彼…翡が宣言すると、蒼はどうぞご遠慮無く、と言って再び微笑した。


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