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天と地と、その狭間で(禮晶) 完
弐壱
…願いは、貴方に降り注ぐ
そっと 哀しみを越えて
いつか 再び出逢えると
泣いていた 貴方の横顔想うよ   (kaggra,『うたかた』より)



「お前、何?目の色は何かこだわりでもある訳?」

基本、翡が手を下せるのは生者だけであり、死者は管轄外だ。
死んだ後に冥府で「目は青系統の色でお願いします!」とか言っている姿を想像したら少し笑えた。
桓ノ国の東端・翔鳳峰。
蒼が没してから五百年程の歳月が流れていた。
当時とも殆ど変らない姿でやれやれと溜息をつく翡。
彼の腕の中には厚手の布に包まれた、生まれたばかりの赤子が抱かれていた。
まるで夜明け前の空の様な…薄い藍色の瞳。
かつても彼の瞳は黒色ではなかった。
「綺麗な色だけど、だから捨てられたんだろうが」
まぁ、赤子に言っても仕方が無い。

しかし…物怖じしない赤子である。
概して自分達に対する勘は幼い者ほど鋭い。
そして普通、泣かれると思う。…何モノか分からない存在、人ならざるモノだからだ。
だが、赤子は翡に向かって無邪気に笑い、小さな手を差し伸べている。

『えーと、こんにちは』

かつて、人ならざるモノである自分に臆する事も無く、そう言って自分に手を差し伸べた人間がいた。
昔と今と…かつての彼の姿と…重なった。
知らず、翡はぽつりと呟いていた。

「お帰り…蒼」

いいや、と翡は首を振った。
蒼はもういない。とうの昔にいってしまった。
此処にいるのは彼と魂を同じする者、生まれ変わりにすぎない。
真昼の空の様な色の瞳だった蒼と、夜明け前の空の様な色の瞳の赤子。
似ているが、何処か違った。

「…よし、お前の名前は縹!目の色が縹色だし良いだろう」

赤子は無邪気に笑った。気に入ったらしい。
つられて翡も笑う。
「俺もとうとう子持ち…あ、子持ちでこの姿じゃちょっと不味いか」
現在の翡の外見は、人間で言えば十五歳位。
この位か?と外見を変化させてみる。
「やっぱり違和感あるな…まぁ、その内慣れるだろう」
三十路位の外見になった翡は赤ん坊をあやしてみた。
……途端に火がついた様な勢いで泣かれた。

「何!?若い方が良いのか!?」

昔、昔の話である。





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