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天と地と、その狭間で(禮晶) 完
弐拾
「お久し振りです、何十年振りですかね…」
「そうだな」

風の子にも言われたが年老いた蒼に対し、翡の姿は全く変わらなかった。
まず、蒼は自分や国に対する力添えに対しての礼を述べた。
「…御神の我らに対する並々ならぬ加護、礼の申し上げ様がございません」
「ちょっと待て。気色悪い」
いつか何処かでした様なやり取りに、二人は少しだけ笑った。
それから蒼は国の事、子や孫達の事についてぽつりぽつりと話し始めた。翡はただ黙って聞いていた。
もっとも、彼は蒼が長男の誕生時にちょっと感動して泣いていたのも孫には甘かったのも天上世界から見ていたので、全て知っていたのだが。
…ふと、蒼は思いついた様な口ぶりで尋ねた。
「死んだ者は冥界に行った後、どうなるのですか?」
何だいきなりと翡は片眉をあげたが、答えた。
「生前の記憶も思いも全てを消されてまっさらになった後、もう一度生まれて来る。次に何に生まれるかは生前のが色々と考慮されるからそれは本人次第だがな」
「……そうですか」
そうですか、と蒼はもう一度小さな声で呟いた。
「どうしたんだ?いきなり」
「とんでもなく利己的な、そんな願いです」
首を傾げた翡に、蒼は思い切って言ってみた。

「生まれ変わったら…もう一度、貴方に会いたい」

……。……。……。沈黙。
たっぷり間があいた後、翡は腹を抱えて笑い出した。涙まで流している。
「そこまで笑わなくても!と言うか変な意味じゃありませんよ!?」
聞いていない。周りを見ると翡だけではなく、風の子達まで笑い転げている。
「俺が誰だか分かっているのか?」
ようやっと笑いを収めた翡は目を眇めて問うた。
「俺が関わったせいで双子の弟が死んだ事を忘れたのか」
「忘れる訳無いでしょう。今でも夢に見ますよ。」
でも、と蒼は呟いた。
「…それでも…もう一度、」
「…もう良い」
蒼の言葉を翡は遮った。
顔を上げた蒼に彼は不器用に笑ってみせた。
「有り難う」



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