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天と地と、その狭間で(禮晶) 完
拾捌
それから、蒼の目に彼らが映る事は無かった。


以前はあれ程騒がしく聞こえた風の子達の声も、ただ風の鳴る音としか彼の耳には捉えられなくなっていた。
青の見ていた世界はかくもあるのか…と思う。
世界は静かで、ややもするとうねりが無く、単調にさえ見えた。
それを寂しいと思う事もあったが、国作りをして行く忙しさ、煩わしさに紛れていつの間にか淡く消えてしまった。
やがて国号が『桓』と定められ、その初代帝として彼が就任する頃には……彼の目も耳も、とうに何かを視る、聴くという事を忘れ果てていた。
ただ、折に触れて風に、大地に、…天と地と、そしてその狭間に彼らの存在を感じる事は出来た。
『幾らでも俺を恨んで良い…そしてもし、お前が望むのならいつでも力を貸してやる…』
「出来る訳無いでしょう…そんな事」
その後、彼はかの氏族の怨霊から自分と後の世代を守る為に、ただ一度だけ彼らの力を借りたと言う。
その際も可能な限り己の力で片付けようとした。
人間の問題は人間で片付けろ、それが後年の彼の口癖であったそうだ。

やがて、時は過ぎ、彼は帝位を降りた。
いつかこの地位の為に争いが起きるのだろう。
…そして、いつか何処かで会った彼は、死ぬまでその座に座り続けるのだろう。本人の意思の有無に関わらず。

「………。」

一人彼が向かった場所は国の東端…彼の氏族の故地であり、青が眠る場所。
そして…かつて、かの神仙と初めて会った場所であった。

その場所を、今の時代の者は翔鳳峰、と呼んでいる。






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あきゅろす。
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