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天と地と、その狭間で(禮晶) 完
拾陸
「昔の話だ。天上世界にも今の人界みたいな時代があったんだ」

天帝の跡目争いが原因だったと言う。
何人かいた候補者に神仙達がそれぞれ肩入れし、激しい内乱状態がずっと…それこそ何千、何万年にも渡って続いたのだ。

「仮に候補者当人が死んでもその一族の中からは誰かがまつりあげられ、戦は終わらなかった」
誰かが死なない日のあった覚えが無い位、多くの者が日々、死んで行った。
代々の天帝に受け継がれ、その随一の宝とされていた太白剣は激しい争奪戦に遭い、その結果多くの者の生命を奪う事となった…
「…こいつは元々、破邪の剣だった。清いものを呼ぶ剣だった。だが、こいつは血を吸いすぎた。多くの者達の怨みを背負いすぎたんだ」
太白剣の特質は曲げられ、禍つものを呼び込む呪いの剣と化してしまった。
「そしてこの剣の為に死んで行った奴らの怨恨の念が…天帝位への妄執故に、この剣は自らが見込んだ使い手と約定を結ばせる。」
「約定…?」
怪訝そうに呟いた蒼に、翡は頷いた。

「力を貸す代わりに、死ぬまで共に帝位へ座り続ける事。」

翡は当時、所謂「候補者」の血筋に生まれた者だった。
ある時唐突に自分がその「候補者」になる羽目になり、争いの矢面に立つ事となってしまったのである。
「いくら不本意にそうなってしまったとは言え、戦わなければ此方がやられる。…一族を守りたいという気持ちも少しはあった」
だが、翡の一族は力など無いに等しい、弱い一族であった。
戦いの中で一族は一人死に、二人死に…とうとう翡と、弟だけとなってしまったと言う。
「弟は生まれつき病がちでな…戦で無理をさせる訳にはいかなかった。だが、このままでは二人共死ぬな、って時だった」
流れ流れ、翡の手に太白剣が渡ったのだと言う。
「後の事なんぞ悠長に考えてはいられなかった。剣に誘われ、俺は即座に約定を結んだ」
「……!」

そうして気がついた時、翡は帝位に座っていた。
…まるで約定の証だとでも言うのか、柄頭の玉の色を無色透明から濃い翡翠色へ色を変化させた太白剣と共に。
「弟君は…?」
「…死んだ。太白剣に呼び寄せられ、増幅された怨みや憎悪の念にとり殺されて」
呪いの剣と化していた太白剣。
かつては清いものを呼んだそれは、こびりついた血と怨恨の念故に、禍つものを…かつてと正反対のものを呼んでいたのだ。

蒼は、青の身に何が起きたのかを悟った。
「…何故、私ではなく青に?私が長子なのに…」
「お前は戦場には行っていなかった。実際にあの一族を屠ったのが青だったからだろう…」
「………っ」
翡はそっと蒼に背を向けた。

「俺が青にこいつを貸した時、呪いの事はあらかた説明した。…本当は、お前に授けるつもりだった」
「え…」
「青が、お前に授ける位なら、自分に貸してくれと」

それ以上、翡が何かを言う必要も、蒼が何かを問う必要も無かった。
目の下にある傷痕が、引き攣れた様に痛い。
五歳の時の傷だ。今になって、十五年以上経って、急に痛みを伴う筈が無い。
それなのに、ただただその古傷が痛んで仕方無かった。




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