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天と地と、その狭間で(禮晶) 完
拾肆
戦いは蒼達の氏族の勝利で終わった。

「勝った…本当に勝った…」

気が抜けてしまった様な日々が数日続いたが、その内に勝ったのだと言う実感がじわじわと伴って来る様になった。
だが、兵達の様に浮かれている暇は蒼にも、無論だが青にも無い。
共に戦って来た氏族への恩賞の配分やら、国の基盤作りやら、やるべき事は幾らでもあったのだ。
そして翡も、そうした事には直接関わっていないものの、彼も結構忙しく動き回っていた。
「…久し振りに暇になったな…」
「ですね…」
本当に久し振りだった。
日当りの良い縁台に寝転がって草餅を頬張ってお茶を飲む…何とも言えず長閑で、幸せすぎる。
何処まで伸びるか、などと餅を引っ張っている翡を蒼は穏やかな表情で見ていたが、やがて、ぽつりと
「……有り難うございました」
「は?」
餅がぷつん、と二つに切れた。
何だいきなりという表情の彼に、蒼は起き上がると正式な形の礼を取った。
「御神の我が氏族に対する今までの並々ならぬ加護、礼の申し上げようがありません。何卒、これからも…」
「…ちょっと待った。気色悪い」
「………。」
沈黙してしまった蒼に翡はからからと笑い声をあげた。
「俺の方から持ちかけた話だ。お前らが気にする話じゃない」
ふっと彼の翡翠色の瞳が翳りを帯びた。
首を傾げた蒼に、翡はぽつりと呟く。
「俺には何も出来なかった。…あの剣…太白剣には俺でもどう仕様も無い呪が掛かっている」
「呪?」
その時、腹の底から凍り付く様な寒気に二人は襲われた。
「青!」
「え、何なんですか一体!?」
間に合ってくれ、間に合ってくれ…と翡は祈り続けた。
だが、それが叶わぬという事も彼自身が一番よく知っていた。
それでもそう祈ってしまう自分が酷く虚しく、また自分の無力さに腹が立った。



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