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天と地と、その狭間で(禮晶) 完
拾参
戦いは、二つの氏族の内、一方の氏族の故地に程近い場所で始まった。
これは土地勘があり、更には土地神とも繋がりの強かったその氏族にとっては有利な筈だった。
かつてはその土地一帯で戦をすると、必ず敵方の陣地で所謂祟りが起きる場所だとまで言われていたのである。
だが……

「何故、」

何故、今回に限って敵方の陣に異変は起こらないのか。
土地神は彼らに味方すると言うのだろうか。
長年、その土地と、共に生きていた我らにではなく。
将の動揺は兵に伝わる。
少しずつ、誰にも気付かない程に小さいが、確実に綻びが生じ始めていた。

戦はどちらが勝っても本当におかしくはない状況であった。
戦況は混迷を極め、もはや収拾がつかなくなりかけていたが、結局としてその氏族は負けてしまった。
故地へ逃げた彼らを、敵方の軍は容赦無く追撃した。

「この恨み、未来永劫忘れぬ…!」

勝てば官軍、それはそうだ。
負ければ賊軍、確かにそれもそうだ。
だが、感情がそう簡単に「それもそうか」となる筈も無く。
……次々と恨みの言葉を吐きつつ彼らは自害して行った。
彼らの故地は、その後、血と怨嗟の念とが染み込んだ呪いの土地と化したと伝えられる。
死人草とも呼ばれる曼珠沙華だけが紅く紅く咲き誇る、死の匂いのする土地となったのだそうだ。



「お前は、どうする?…民を失わされてしまった土地神よ」
童子の姿をした最高権力者に、土地神は片眉をあげた。
確かに今回、ただならぬ神気を纏ったものが敵方に付いていたのは分かっていたが…
「まさか天帝陛下御自らが手を下していらっしゃったとは」
道理で自分の力が及ばなかった訳である。納得。
「人界の争乱を抑えるのも俺の役目だからな」
「…あの一族の…長子を随分気にしておられた」
知っていたのか、と翡が問うと土地神は勿論、と微笑した。
「良い若子ですな。お目が高い」
「そう言って貰えると嬉しいが、…だが、お前の土地を穢し、民を屠ってしまった。…すまない。」
「…天帝陛下があっさり頭を下げんで下さい。威厳が下がる」
呆れた様に土地神は言う。
「私は土地と共にあり続ける存在です。いなくなり、先に消えるのはいつも彼らの方だった。…今回はそれが大規模になっただけでしょう」
申し訳無さそうな、何とも情けない顔をする天帝に土地神は苦笑した後、深刻そうな顔をした。
「…彼らの怨恨の念は…私にも、もう、どうしようもありません。彼らは私をも恨んでいるから」
「……分かっている。俺が一番、よく分かっている」
そうですね、と土地神は呟いた。
「貴方自身が体験なされた事でしたね…あの剣…太白剣が諸刃の剣と言われる所以を。」





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あきゅろす。
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