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天と地と、その狭間で(禮晶) 完
拾弐
「いよいよ明日が決戦、か」

所謂天下分け目の戦いである。
床に就いた後、例によって…恐らくは夢の中…に現れた翡に、青はやや強張った表情で頷いた。
「相手は古くからあり、強大な軍事力を持つ氏族。勝算は」
「考えるな。将の不安は兵に伝わる。…それが敗因となる事だってあるからな」
少しは兄を見習え、と言われて青は複雑そうな表情をした。
……きっと今頃、蒼はぐっすり眠っているのだろう。
何も憂えず、何も考えず。
「あいつだって色々と考えてはいるぞ。まぁ、お前とは思考の種類が全く違うがな」
この数年、人ならざるモノと会話し、情報を得たり協力を求めるのは蒼の役目だった。
翡は、そのお膳立てをしていたにすぎない。
「確かに今度の相手は今までと違い、土地神との繋がりが強いからな…所謂祟りなんてものが出る可能性もある。」
「え、」
だから一々動揺するなと言っただろうが、と翡は面倒臭そうに言う。
「そいつがあれば何とかなるだろう。恐れるな」
そいつ、と枕元に置いてあった剣を指し示す。
…数年前、翡と青とが取引した時の事。
盟約の証だと言って翡が青に与えた宝剣の事である。
切れ味がぞっとする程鋭い、ひょっとしなくても妖刀、魔剣の様な代物だ。
鞘には螺鈿に似た精緻な細工が施され、柄頭には翡翠色の大玉が填められている。
翡翠色、という色だけではなく…見る者に翡を思い起こさせる何かがその大玉にはあった。
青は何かを言おうとして躊躇った後、
「…貴殿は、翡翠の付喪神か何かなのか?」
「は?」
付喪神…物が悠久の時を経る事によって生命を得た存在だ。
「と言うか、お前、付喪神知っているのか。視えないくせに」
「いや、兄上がそういうのもいる、と…」
兄上情報だったらしい。
「取り敢えず俺は違うぞ。でもその設定良いかも。よし、採用」
「設定…」
呆気に取られている青を見て、翡はからからと笑い声をあげた。
「まぁ、頑張れよ。勝ってくれないと俺としても困るから」
そんな殺生な、と言う青を無視して、翡はとっとと夢の中から撤退した。

決戦前夜の事であった。



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あきゅろす。
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