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天と地と、その狭間で(禮晶) 完

「………という訳なんだが、どうだ?」
長い長い話だった。青の説教と良い勝負である。
余りに現実離れしすぎた翡の話に、青はしばらく目を白黒させていたが、やがて、
「本当なのか」
ぽつり、と聞き取れぬ程の声で呟いた。
「本当に…そうすれば我が氏族は」
「くどいぞ。まぁ、確かに俄かには信じられん話だとは思うが」
悪魔の囁き、という単語が青の脳裏に浮かんだ。
だが…
「……それがどうしたと言うのだ」
「は?」
ろくな力も無いど田舎氏族。
余りにど田舎すぎて何処からも戦略上無価値だとされているからこそ、今は一時の平穏が得られているのだ。
だが、遅かれ早かれこの地にも戦火がやって来るだろう。
それが避けられ得ぬのなら、いっそ…
「それで我ら氏族が生き残れるのならば引き受けよう。…俺が引き受ける」
最後が本音だな、と翡は心の中で呟いた。…良くも悪くも。
「…よし、分かった。俺も可能な範囲で助ける。」
「かたじけない」
ふ、と翡は笑った。
「何故笑う?」
未だ表情が強張ったままの青が聞くと翡はいいや、と首を振った。
「遥か昔の事を思い出しただけさ。…遠い昔だよ。俺がガキの頃の話だから」
「ガキって…」
どう上に見積もってもせいぜい十三位に見えるのだが。
「ど阿呆。神仙と人間では時の流れ方が違うんだよ」
…告げられた実年齢に青は気が遠くなった。


「後、これお前の夢の中だからお前の首は掻き切れないんだ、実際には。さっきのは演技な。」
「え、ならば先刻の取引は」
あれも夢かと青は絶望しかけたが、翡の眼を見て口を噤んだ。
濃く、鮮やかな翡翠色の瞳。
其処に宿っている光は到底、夢の中の代物ではなかった。
「あれは本当だ。…いつかお前がこの取引も夢であったなら、と思う時が来ない事を祈るよ」






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