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習作(kankisis)

 約束された土地へと向かえ。自分は言った。そこへ行けば、自由になれる。
 色とりどりのランプが点滅し、楽しげに鶏が踊っている。こんなのはもう飽きた。でも、結局ここにいるんじゃないか。もう懲り懲りだ。
 そこへ行けば、自由になれる。
 素直に行ってくれた。それだけで満足だ。あの時の印象がずっと目の底に揺らぎ続けている。そう、あの潔さ……きっと見るのは最後であろうその姿……
 そろそろ、ここを出られた頃だ。何もなければの話だ。何かあれば、ここには自分しかいないだろう。孤独になら耐えてみせるさ。だが事実を把握したい。しかしどのようにしたってその途端意味をなさなくなる。困ったものだ。少なくとも一ヶ月はここで待たなければならないとは。しかし……意義はある。
 警告されたことは本当だった。しばらくは地獄が待っていることだろう。自らを保たねば。ここで我慢しなければ、何もかもが台無しになってしまう。きついがここは我慢のしどころだ。少なくとも到着までは。
 そこへ行けば、自由になれる。ここに残れば自由はない。
 しかし……しかし、なんと辛いことか。ずっと繰り返すだけ、まだ時間は経たない。本当にこれで良かったのだろうか? 今更もう遅いのはわかっているが。ああ、今から出て行けるものならすぐにでもここを飛び出して、あいつらの所へ行ってやりたい。そして、言ってやるんだ……
 見捨ててくれてありがとう! 俺のおかげで君たちは自由を手に入れるんだ、忘れるなよ! でも俺に自由はもう見向きもしない、これは俺が自ら選んだ事だ、だから後悔はするな、忘れるなよ!
 無理だ。行きたくても行けるものか。“台無し”だろう? だってそうじゃないか。でも、何がどうなってるのか位は知りたい。現状を知りたいんだ! 一ヶ月? 長過ぎる。どうしたって無理なんだよ、出来っこない、ああ、きっと、半端に終わるんだ、どうしても耐えられない……耐えられるものじゃない……
 そこへ行けば、自由になれる。だが、それだけしかない。それだけでは何も出来ない。そういうものだ。
 さあ……笑え、喜べ、虚実の為に。出来損ない、それに尽きる。酷いもんだ、どうせここにいるしかないんだ、あいつらはいいさ、外を知ることが出来る。もういい。寝てやれ。ずっと、そう、一ヶ月経つまで待ってやる。それまで我慢してやるんだ!
 ここに残れば,自由はない。しかし他のものは全てある。そういうものだ。
 目が覚めた。急いで飛び起き、デジタル時計に目をやる。はは、もう一ヶ月になるのか、思ったより早いじゃないか。さて……この分じゃもうあそこに一人は辿り着いている頃だ。耐えるなんて、今となってはただの馬鹿馬鹿しい考え、虚実に過ぎないのだろう。
 人間とはなんと……利己的なのだろうか。この一ヶ月で証明されたことは少ないが、一つ一つは大きい。普遍的だ。そこが大事な所だ。結局自分は最後までここにいることが出来たし、あいつらは察して戻って来なかったそこが大事な所だ。自分がここを飛び出しても、あいつらがここに戻って来ても、全てが台無しになった。でも実際はそうならなかった。
 ランプは相変わらずだった。鶏は死んだ。
 そこへ行けば、自由になれる。だが、それだけしかない。それだけでは何も出来ない。そういうものだ。ここに残れば、自由はない。しかし他のものは全てある。そういうものだ。結局は勝った。自分は勝利を手にした。奴らは負けた。ただそれだけのこと。
 今頃はどうしてるんだろうな! ただただ歓喜に身を震わせているんじゃないだろうか、そうでなかったらきっと、そう、絶望に打ちひしがれているんだ。どっちにしろ奴らは動けやしない!
 ここが天国だ……


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