縹(禮晶)完 玖 玉の護衛は縹の想像以上に大変なものだった。 朝から晩まで片時も離れさせてくれないのである。 他の護衛に交代させてくれれば良いものを、何故だか彼は縹以外の護衛を呼びつけようとしてくれないのだ。 「………水の属性なのに……。」 縹の独り言は玉にしっかりと聞こえていたようだ。 地獄耳の皇太子殿下、というのもなかなか珍しい。 「水の属性?私がか?」 「あぁ。…普通水の属性の者は一つの物事に執着しない。」 「していないぞ。帝位などには。」 確かにその通りなのだが。 じゃあ毎日毎日特定の護衛を使うのは何なのだ。 縹の言いたい事は玉にも通じたらしい。 「お前が一番腕が立って且つ信頼出来るのだ。」 「そりゃどうも。」 新入りがそれというのも問題な気はするのだが。 「父上や陽叔父、義母上は何の属性なのだ?」 どうやら玉は属性区分に興味が湧いたらしい。 「…帝は風だ。何処か捉えにくい御方の様に思えた。 陽親王は雷。勢いは良いのだが落ちてゆくだけだ。」 縹のその言葉に玉は涙を流すほど大爆笑した。 「隕石でも良いのではないか?」 「そんな区分は無い。」 「……そうか。」 玉はちょっと残念そうに呟いた。 「沙華様は火。風とは相性が良い。」 「お前は何なのだ、縹?」 「………地、だ。」 「地?」 「滅多な事では動かない相当な頑固者だ。」 「………ではなくて単なるものぐさなのでないか?」 その日、皇太子の宮殿でちょっとした爆発が起きた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |