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縹(禮晶)完
弐拾
音を立てて鮮血が辺りに飛び散った。
「……っ!」
濃い血の臭いと共に、自分の記憶ではない記憶が怒涛の様に溢れ出して来た。地の記憶の比ではない鮮烈さである。
これは…帝の、記憶だ。
(何を、伝えたいんだ)
あちこちに向いていた記憶がある一定の方向へ定まって行く。
全ては、十六年前に起きた事……

第一妃の懐妊。
やがて生まれてきた双子の皇子。
兄皇子の瞳の色。
珠と名付けた彼を捨てざるをえなかった悲しみ。
玉と名付けた弟皇子の成長…
………そして、縹と名乗った少年の瞳の色。
珠が、捨てた我が子が還って来た…………

「く…っ」
我に返った縹が辺りを見ると玉が茫然と立っていた。
彼も、帝の記憶を見てしまったらしい。
「縹、お前…否、貴方は…」
「ややこしい話は後だ。それよりも大変な事になっている。」
翡翠の大玉も帝の血も…封印は解かれてしまった。
正殿の外に出てみると、暗い色をした空の上ではぞっとする程醜悪なモノが暴れ狂っている。
………怨霊だ。
「解放、されたのね。」
後から出て来た沙華が空を見上げて呟いた。
嬉しそうで悲しそうな、そしてとても切なそうな、表情…
「これで、私の定めもやっと…」
縹と玉は止めようとしたが間に合わなかった。
沙華は帝を殺した同じ小刀で、自らの生命をも絶っていった。
「どうして、こんな事に」
玉が泣いているのを目の端で捉えながらも、縹はいかに怨霊を始末するかを最優先で考えていた。
「くそ、今の俺の力じゃ鎮める事は不可能だな…」
より強くたわめられていた木の枝ほど元に戻ろうとする力が大きい様に、何千年もの間を封印されていた怨霊達の力には凄まじいものがあった。
「縹…どうすれば…」
「分らない。だが、このままではお前が…」
帝が死んでしまった今、玉が帝とならざるを得ない。
だがそうすると確実に怨霊達の矛先は彼に向く。
「どうすれば…」
ふと見ると、沙華の亡骸が何かを握りしめているのが見えた。
掌にすっぽり収まる大きさの、小さな瓶。……封印の毒だ。
不意にある考えが脳裏に閃いた。
だが成功するかどうかも全く分からない上に、己の命はない。
それでも、玉を死なせたくはなかった。
桓ノ国の帝位後継者だとか、もしかしたら双子の弟だとか、そういうのではなく…ただ彼を死なせたくなかったのだ。
それと自分の生が両立してくれないだけなのである。
「沙華様…貴女の言う事は正しかった様ですね…」
「縹?」
どうやら、生まれた血の定めとやらには勝てないらしい。


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あきゅろす。
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