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縹(禮晶)完
拾玖
「縹!」
気付いてくれたか、夜着姿の玉が正殿に駆け込んできた。
「一体何事だ、お前何がしたいんだよ……って、」
後ろ手に縛られている縹に唖然とする玉。
「……。厠に起きたら何やら書状置いてあったが…」
「でかしたお前の膀胱!」
思わず膀胱を褒め称えてしまう縹。大腸の可能性…まぁ、無きにしも非ず、と言ったところだろう。
「ところで、一体誰が黒幕だったのだ?」
縹が玉の問いに答えようとした時だった。
「動くな、それ以上動いたら彼を斬る……っ!」
小説などでよくある犯人の台詞だ、と突っ込むのには余りに危険すぎる状況に縹と玉は瞠目した。
彼、というのが誰であろう…帝だったからである。
一服盛られたのか、こんな状況においても微動だにしない。
「父上っ!」
「無駄よ。西方から来た強力な眠り薬だから。」
沙華が黒幕という事に少なからず玉は動揺していた。
だが、悲しいがそれを疑う余地は無さそうである。
「義母上…何故、この様な…」
「二度同じ説明するのは嫌いだから。」
縹は玉に小声で怨霊の身内だ、と教えてやった。
「そんな…大昔の事を」
ぽつりと呟いた玉の表情。…とても、悲しそうだった。
そして、それをあたかも遠景の人物か何かの様に眺めている自分に気付いた縹はどう仕様も無い虚しさを覚えた。
(俺は、一体何をしているのだろう)
……沙華の行動を愚かしいと思っている自分がいる。
だが、翡の仇討ちの理由だって彼女のそれと変わらない。
……桓ノ国がどうなろうと、どうでも良い筈だった。
だが、今自分のしている行動は一体何だ。
……自分は珠皇子ではないと思いたい。
だが、珠皇子ではないと立証する事は出来ないのだ。
(俺は…本当に、)
縹が投げやりな気分になりかけていた時だった。
「義母上、今ならまだ間に合います。だから」
「無理よ。……とても、残念だけれども」
そう、妃として穏やかに暮らす演技はとても楽しかった。
いつしか演技と真実の境が見えなくなってしまう位に……
「怨むのなら、私達の血の定めを怨んでちょうだい」
刃が風を切る音。玉の叫び声。
縹も術を使おうとしたが間に合わなかった。
沙華は、帝の首に小刀を突き立てていた。


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あきゅろす。
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