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縹(禮晶)完
拾捌
しばらく縹と沙華は睨み合ったまま動かなかった。
「何故この様な真似を?己の子に帝位を、ですか?」
「それも一つだったわ。だけどもっと大きな理由がある。」
そう……絶対に理由がある筈なのだ。
翡を殺し、そしてこの桓ノ国を滅ぼすに足るだけの理由が。
沙華が返して来た答えはやや意外なものだった。
「小説やお芝居でもよくあるでしょう?仇討ちよ。」
「仇討ち?」
ちょっと考えにくい話である。
普通、宮中にあがる者は先祖や遠縁に至るまで逆賊などがいないか否かを厳しく調べるのが通例であった筈だ。
仇がいると思われる様な血筋なら宮仕えは許されまい。
「そうね、かなり昔の話だし。それに役人ってぐうたらなのも多いから正直言って調査はかなり杜撰だったわ。」
「あぁ、成程。」
「……貴方って人の調子を狂わせるのが上手いわよね。」
「そうですか?」
そもそも、縛られたまま事件の黒幕と落ち着いて話せているその豪胆さに感心である。
「取り敢えず、私は怨霊の血族。名前もそうだし。」
「沙華…もしかして、曼珠沙華。」
桓ノ国の皇族の始祖・蒼に滅ぼされたという氏族の故地。
其処は、死人草とも呼ばれる曼珠沙華だけが血の海の様に咲き誇る呪われた土地……
「正解。殲滅されたと言っても必ず残党はいるものよ。」
「まぁ、俺もその部類だろうしな…」
かなり、不味い状況である。
沙華の目的は明らかに怨霊の解放だ。
そんな事をしたら人界は大混乱になり、神仙の世界にまで波及しかねない。それは何としても避けねばならなかった。
(くそ、きっちり関節を押さえられてる…)
縄抜けが出来る様な甘い縛られ方でもなかった。
(玉…頼むから寝こけているとか言わないでくれよ…)
万が一の為に、宝物殿に行く前に玉へ書状を残して来た。
彼が来てくれるまで後どれだけ時間稼ぎが出来るか…
早く来い、と縹は切実に願った。


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あきゅろす。
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