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縹(禮晶)完
拾漆
(………くそっ、頭が痛い…)
絶対に瘤か何かが出来ているぞ、これは…
(あれ?そもそも何で瘤が?)
己に何が起きたのかを思い出した縹は飛び起きようとして、其処で後ろ手に縛られているという事実に気付いた。
「………っ!」
それでも慌てて身を起こすとそこは正殿、玉座の前だった。
何故、正殿?
あの状況なら地下牢とかの方がしっくり来る気がするが。
「やっとか。目覚めるのが遅くて待ちくたびれてしまった」
さらり、と衣擦れの音が聞こえた。
手燭を持った人物の顔を認識した縹は愕然とした。
一連の事件の黒幕だなんて、全く想像していなかった。
「沙華様…?」
「気がついたようですね、縹。……いいえ、珠(シュ)皇子。」
「は?」
誰だ、その珠皇子って。
よほど阿呆な表情でもしていたのだろうか、沙華は喉の奥で笑いながら知らなかったのか、と言った。
「皇子って、玉と昨年に亡くなられた貴女の子供しか」
「そう、公にはね。そしてもう一人いたのよ。」
……今から十六年前、玉は双子の弟として生まれた。
だが彼の兄皇子は、本来ならば帝位を継ぐ筈の身を、その特異な瞳の色のせいで翔鳳峰に捨てられたのだと言う……
「その哀れな皇子の名が、珠。貴方なのですよ。」
どうやら地の記憶はそれを伝えていたらしい。
(嘘だろ、あれが弟かよ…しかも双子の)
やけに冷静な脳味噌の片隅で縹はそう思った。
嘘だと思いたいが、帝の言動を思い出した。
もしかして初めて会った時に彼の表情が変わったのは単に縹色の瞳が珍しかったからではなく、捨てた我が子と同じ色の……珠皇子なのかもしれぬと思った故だったのだろうか。
書庫で会ったあの時、一体何を思っていたのであろうか。
「驚いて言葉も出ませんか?」
「や、全然そうじゃなく……あれが弟って…と。」
縹の素直すぎる感想に沙華は声を立てて笑った。
「変わった皇子様だこと。」
「皇子じゃないが…変人だとはよく言われた」
頭の中では警鐘が大音量で鳴り響いている。
彼女を信じてはいけない、と。騙されるな……と。
だが、今まで不明であった自分の出自を知りたいという全く正反対の気持ちも抑えがたい代物だった。
(さて…どうしたものか…)


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