縹(禮晶)完 拾伍 「これが、本当の建国神話だ………」 玉の話は縹の予想以上に深刻な物であった。 だが、これで翡が殺された理由が何となく読める。 (だが、何の為に…) 怨霊達を解放して、戦乱の世に戻すつもりなのか。 だがそんな事で得になる者が、本当にいるのだろうか…? 「何か残り一割の可能性を探さねばならなそうだな」 陽叔父ではなさそうだ、と玉は窓の外を見ながら呟いた。 空一面を黒い雨雲が覆い尽くしている。 ……長い雨になりそうだった。 「お前も見ただろう、正殿にあった硝子の大玉。」 「あぁ。」 あれは太白剣に付いていた翡翠の大玉の形代なのだと言う。 破壊されてしまった第一の封印の代わりに、と帝が大慌てで作らせたものなのだそうだ。 「そうか……」 黙り込んでしまった縹に玉は問うた。 「お前、最初の時からあれを気にしていたな。何故だ?」 「あぁ、お前には話していなかったのか。」 建国神話を聞かせて貰った代わりだ、と縹は自らの事を玉に聞かせてやった。 「そうか……」 痛ましそうな表情の玉に気にするなと縹は言った。 「だが、お前のお陰で何で師匠が殺されたのかは分かったよ。…誰が何の為になのかは分からないが、礼を言う。」 「え、礼なら口ではなく物で返せ。」 玉の台詞に縹は笑った。今までの重い空気は何処へやら。 「流石は水の性。何でも押し流してしまうか。」 「当たり前だ。過去に囚えられていたら前へは進めないぞ。」 以前、天門で会った童子にもそんな事を言われた。 …………過去に囚えられて自分は今こうして此処にいる。 かもな、と縹は苦い笑いを零すしかなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |