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縹(禮晶)完
拾弐
その日の玉の夕食には地の記憶通り、魚料理が出された。
うっかり護衛だけでなく毒味役までやらされる羽目になった縹は渋々と汁物を匙で掬って飲もうとした。
「………玉。」
「一応、これでも皇太子殿下なのだが」
そう抗議しつつも咎める気が全く起きない玉であった。
いちいち咎めるのが面倒臭いというのも理由の一つではあるが、それ以上に縹から敬語を使われると、どうしても違和感を覚えずにはいられないのである。
「その汁物、多分飲まないほうが良い。」
「…………毒か。」
昔から純銀は毒に反応すると言う。匙に付着した茶褐色の物質…溶き損ねた味噌に見えなくもないのだが……
玉は汁物の椀の中身を外に捨てた。
入っている高級食材がもったいないが仕方が無い。
意地汚い野良猫がふらりと寄って来て、汁物にも入っていた干し魚を食べたかと思うと、身体中を痙攣させ始めた。
四肢を無茶苦茶に振り回し、まるで身の内の何かを外へと掻き出そうとしている様にも見える。
程無くして動かなくなった猫に、周囲は騒然となった。
「かなりの毒だな……助かった、縹。」
縹は沈黙したままだった。
「……縹?どうした?」
いや、と縹は首を振ったがいつに無く顔色が悪い。
「この猫、俺が引き取って良いか?」
「ん?あぁ、手厚く供養してやらねばな。」
そうだな、と縹は懐から取り出した布で猫の遺骸を包むと、直接は手で骸に触れない様に注意して持って行った。


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