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羽那陀(禮晶)完

その頃、神仙世界。
「おい、縹。見つかったぞ。」
「本当か!さすがは水蛇、手際が良いな。」
「当たり前だ、私を誰だと思っている。」
水蛇は縹に土地神から寄せられた報告書を渡した。
……間違いない。この娘に憑依したのだろう。
「妖魔の通力で無意識の内に水を操っている上に髪の色も白銀に変化、更に淡くなり始めている……予想よりも早く影響が出ているな」
水蛇は頷いた。手遅れになりかねない早さである。
生け贄として捧げられた娘だからなのだろうか。
「どうする?お前の子孫も一緒にいる様だが」
縹は元々、数百年前の桓ノ国の皇子だったのだ。
だが薄い藍色、縹(ヒョウ)色の瞳が不吉であると忌み嫌われ、そうして捨てられた際に養父・先代天帝に拾われたのである。
「どうするって、そりゃ行くしかないでしょ。」
「………執務は?」
「………。……。……。」
縹の目が訴えているところが何かなど、水蛇には分かりきっている事だったが敢えて無視した。
「水蛇。」
「何だ?」
「一日天帝にならないか?」
「断固拒否する。」
作戦変更。泣き落とし作戦開始だ。
縹は下手くそな嘘泣きをしてみせた。
「お代官様、そこを何とか……」
「私は補佐官で代官じゃない。後、嘘泣きするな。」
どうやらしっかりと見抜かれていた様らしい。
縹がいじけているのを見て取った水蛇は溜め息をついた。
こうなって来るとどう仕様も無い。通常業務にも差し障りが出てその皺寄せは全部自分に来るのだ。
ここは妥協だ、世の中諦めが肝心な事もある。
……自分の砂糖菓子以上の甘さに呆れつつ、水蛇は親友に妥協案を出してやる事にした。
「そんなに行きたいならここの書類の山々を全て決裁してから行け。それなら妥協してやる。」
途端にまるで枯れかけた草か何かの様だった縹が急に生気を取り戻してしゃっきりとなった。
縹のそんな様子に水蛇は思わず吹き出してしまう。
「本当か!」
「あぁ。ただし一枚たりとて残すなよ?」
素晴らしすぎる早さで処理を始める縹。いつでもこの位の能率でやって欲しいと思う水蛇であった。
そうしたら自分ものんびりと楽隠居が出来る。
今のままでは絶対よぼよぼの老人になった頃でも親友の子守りに勤しむ羽目に陥るのは確実だろう。
「あ、後、この前の餅菓子は経費で落としたから」
「え、それはちょっとマズいんじゃ…………。」
「今何か文句が言える立場にいるのかね、君は?」
「…………すみません、失言でした」
「分かれば宜しい。」

縹と水蛇。一体どちらが天帝陛下なのだろうか。


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あきゅろす。
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