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羽那陀(禮晶)完

應は急に真面目な表情をしてみせた。怪訝そうな羽那陀に向かってこんな事を聞いて来る。
「なぁ、俺の顔、どう見える?」
「どうって……一般的な人間の顔以外、何も」
口裂け女じゃあるまいし。まぁ、應は男だが。
「じゃなくて、威厳あったりする?」
そう言われてから見れば、まぁ、皆無ではない様にも見える。
変な奴だな、と思いながら羽那陀はそう答えた。
すると應はちょっと複雑そうな表情になった後、いきなり突拍子も無い事を言って来た。
「いや、一応俺、皇族の血が流れているからさ」
「は?皇族?」
いきなり何を言い出すのだ。冗談にも程がある。
その場で打ち首にされても文句は言えないだろう。
「あ、取り敢えず嘘じゃないぞ?」
「いや、そう言われても……。」
今度は應が自分の身の上話を話し出した。
それによると彼の父は皇帝の弟、母は奴婢であり、俗に言う身分違いの恋の結果が應という事らしい。
應の母は自分達の存在が夫の迷惑にならぬ様にと宮廷を退き、以来市井で暮らしていたのだそうだ。
しかし猜疑心の強い帝……要するに彼の叔父……は自身と我が子の帝位の安泰を図る為に應の父母を言いがかりで死に追いやったのだという。
「どうして俺だけが一人生かされたかって言うと、使い捨ての影武者用って事みたいだ。」
「そうか」
多分本物なんだろうな、と羽那陀は思った。
作り話にしては余りにも詳細で矛盾した所も無い。
そして……ほんの少しだけ應に親近感を覚えた。
多分それは應が羽那陀自身と同じ様に非現実的な立場に置かれてしまった者だからなのだろう。
そして現在、應は皇太子の身代わりとして戦争が勃発しそうな関係の隣国へと赴く途中らしい。
「でも、俺はそんな従順な奴じゃないから。」
「…?」
「絶対にいつか隙を見て逃げ出してやる」
何とも無謀な、と羽那陀は思った。
それは表情に出ていたらしく應は不満げに言う。
「だって、悔しくはならないか?理不尽な理由で人生を左右されるのなんか真っ平御免だろう?」
「………。そう、か」
自分は、その『理不尽な理由』を受け入れた。
抵抗する気すら微塵も起きなかった。
どうしてかそれは羽那陀には酷く哀しく、嫌な事に思えた………


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