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羽那陀(禮晶)完
弐拾(終)
季節が巡り、春になった。
淡紅色の桜の花びらが雪の様に降りしきっている。
應は畑を耕す手を止めてその様子を眺めていた。あれから、三年。御先祖様の言っていた年だ。
「羽那陀……」
羽那陀は春が好きだと聞いた事があった。理由を聞いた應は彼女らしさに爆笑した思い出がある。
(桜とか李の花が綺麗だからと言いたい所だけど、やっぱり山が活気づいて食べ物が増えるから。ほら、花祭りとかも楽しみな季節だし。)
じゃぁ秋はと聞いたらやはり春だと言っていた。
(だって秋の七草は綺麗だけど食べられないぞ?まぁ桔梗なら根が薬に使えるから別だとしても春の七草は食べられるから一石二鳥だ。)
勿論稲の収穫も栗拾いも芋堀りも好きだけど、と彼女は笑いながらそう付け足していた。
そんな事を思い出した應は笑った。
「全く、羽那陀らしい……」
「何が私らしい、だ。思い出し笑いとは気色悪い。」
應は心臓が止まるかと思う程びっくりした。
いつの間にか背後に黒髪の少女が立っていたのだ。
髪の色が違うから少し印象が変わっているものの、間違い様が無くその少女は羽那陀だった。
驚いている應を見てしてやったりと笑っている。
再会を喜ぶより前に應の口から言葉が飛び出した。
「羽那陀!人が悪い、心臓にも悪いだろうがっ!」
「お前の心臓がそんなに繊細な訳ないだろう。」
「そういう問題じゃないって!全く…………」
「全く、何だ?」
「…羽那陀らしい。」
「………ふん。」
應は苦笑した。全てが羽那陀らしいで納得出来る自分はある意味とんでもなく凄いのかもしれない。
そうさせている羽那陀も凄いとは思うが。
「感動の再会って感じじゃないよなぁ、今の」
「仕方ないだろうが。私達だぞ?諦めろ。」
「………羽那陀、それ言ってて悲しくないか?」
微妙な沈黙の中を桜の薄紅の花びらが舞いながら静かに、ゆっくりと通り過ぎて行く。
「えーと、まぁ、お久し振り…だな?」
「そうだな。うん、また会えて嬉しいよ…應?」
お互いに語尾が疑問形なのが可笑しい。
二人は顔を見合せて笑った。
そうだ、と羽那陀は懐から何か包みを取り出した。
中身はひしゃげた感じの桜餅である。
「食べるか?桜餅。」
「食べるけど、何でそんなにひしゃげてるんだ?」
羽那陀は沈黙した。
ややあってからぼそり、と
「此処に来る途中でちょっと滑落しかけたんだ」
ちょっと滑落…。そういう程度なのだろうか?
「大丈夫なのか?」
「怪我は擦り傷程度だから、多分大丈夫だ。」
「いや、そうじゃなくて桜餅が。」
「……。」
應は苦笑しながら羽那陀の肩を軽く叩いた。
「冗談だって。大丈夫だったのか?」
「………餅も私も無事だったぞ。」
なら良いけど、と言って應は地面に置いてあった鍬を肩に担ぎ上げると羽那陀に言った。
「どうせだからその桜餅の他にも何か色々出して花見大会とでも洒落込もうじゃないか。」
「そうだな。お前、何か作れる?」
「其処は普通、女が作るんじゃないのか…?」
「分かっている。安心しろ、人並みの筈だから」
意外そうな顔をする應に羽那陀は言う。
「焦がしたりするなよ?」
「お前じゃないんだからそんなヘマをするか」
「あ、これでも料理は得意なんだけどな、俺。」
「妙な皇族がいたものだ。まぁ、悪くはないけど。」
「だろう?」
冗談を言い合いつつ二人は邸へと向かって行った。
桜の花びらが途切れる事無く降りしきっている。


とある春の、昼下がりの事であった。
                    【終】



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